楪や一男旅に一女嫁し 五千石
第三句集『琥珀』所収。平成四年作。
『琥珀』の巻末句。
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「楪」は、葉柄の赤い新しい葉が生えたあと、古い葉が落ちることから「譲り葉」ともいわれ、恙なく代を譲ることができる祝木、つまり成長した子にあとを譲る、という例えで、めでたい木とされる。松や竹と同様、正月の飾りに用れ、新年の季語。
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この句の「一男」は長男光生氏、「一女」は日差子氏を指す。
昭和三十六年九月、長女日差子氏が誕生。長男光生氏は昭和四十年三月生。ちなみに二人とも秋元不死男の命名であり、光生という名は、春の季語「風光る」「水草生ふ」を組み合わせて付けられた。日差子氏誕生時には〈忽焉と父になりけり曼珠沙華 五千石〉を詠んでいる。
日差子氏は平成三年十二月に結婚。長男光生氏についてはあまり語られていないため分からないが、この句の年には光生氏は二十四歳。「旅」、つまり家を出て一人で暮らしている状況かもしれない。
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子を詠んだ句として「楪」はつき過ぎと言っていいが、こういう境涯俳句は、つき過ぎくらいがいいのだろう。二人の子が成長した安堵と、言い知れないさびしさが滲んでいる。
子を詠んだ句は他にも
みどり子に光あつまる蝶の昼 『田園』
よだれかけ乳くさければ春蚊出づ 〃などがある。
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