2013年11月15日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む20~住③~】/筑紫磐井


「住」についてはすでに「⑦~戦後風景~」で【焦土】【焼跡】【瓦礫】【廃墟】を紹介しておいたが、これらは何も残らなかった状態を詠んでいる。今回紹介する項目は、似てはいるが焼け残ったもので、なお住の用に供されることもあるだろうから、微妙ではあるがその違いを紹介しておきたい。

【焦都】

おり立つや焦都の霧を双頬に 潮騒 21 太田鴻村 
芽柳に焦都やはらぎそめんとす 俳句研究 21・12 阿波野青畝 
荒都遠しここ秋雲の母郷たり 来し方行方 22 中村草田男 
雪しまき焦都しばらく窓に消ゆ 旦暮 日野草城 
【焼ビルーー焼工場】
焼工場年逝く鳰をただよはす 雨覆 21 石田波郷 
焼工場夜雲五倍す稲妻す 雨覆 21 石田波郷 
秋の日の天に焼ビル地に破れ靴 現代俳句 21・12 藤田初己 
焼けビルの窓の親子に春の雨 ホトトギス 24・7 浅見里都子 
廃工場人は見ざれど蓮咲けり 霜林 24 水原秋桜子 
廃工場かもめ啼きつつ飛雪となる 麦 25・4/5 鈴木珠鱗子 
【焼木――焼トタン】
焼トタン鎧ひしの家の麦芽ぐむ 石楠 21・5 川口貫之 
焼トタン組まれゆく日々寒ゆるむ 浜 21・3 鈴木濤閑子 
大焚火に煽られしかたちのこす 浜 21・3 大野林火 
日向ぼこ寄りし焼木に熱こもる 歩行者 23 松崎鉄之介 
戦争における特定目的の施設は利用の仕様もないから無人の状態のまま荒れるにまかせている。
【旧軍事施設】
そのかみの要塞地帯麦を踏む 石楠 22・8 大塚梵天瓜 
不発弾掘り炎天の街となる 曲水 24・9 鈴木頑石 
青葉なほ水漬き砲塔寒波割く 石楠 25・5 稲本契月 
屋根に寒日旧軍港は海汚れ 道標 26・4 須貝北骨 
海軍は亡し冬港の浪照つて 石楠 26・10 横髪乃武子 
冬潮澄むかつて特攻艇の洞 浜 28・4 中戸川朝人 
島晩春日本海軍倉庫遺す 浜 28・6 田中灯京 
桐咲けり陣地跡にて毬つく子 浜 29・7 片岡慶三郎 
鉄兜黒き汗垂れ何堰くか 俳句 27・12 中島斌雄 
兵役のなき民となり卒業す ホトトギス 23・1 野田蘆江

※最後の2句は軍事施設と関係はないようである。
やがて、古い施設は解体され、整地され、または改修され、新しい建物に変わってゆく。このあたりになると希望が見えてくる。


【ビル建設――都市復興】
陽炎や復興都市の屋根続き 石楠 25・7 今井◆石 
冬果ての天へデパート塗りいそぐ 石楠 26・4 野中内海 
ビル建設人蟻のごと動きゐて 曲水 29・7 山崎豊女 
富士立夏ビル建つ鉄の反射音 曲水 29・8 酒井美鈴

【ビルプール】
ビルの足場雑然と夏天日本の様 浜 27・11 松崎鉄之介

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