2013年11月1日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む18~住①~】/筑紫磐井

戦後の生活で切実さにおいて「食」と並んで引けを取らないのが「住」であろう。これに引き替え衣食住と言いながら「衣」は項目数も多くなく、その内容も、【戦闘帽】【軍衣等】【開襟シャツ】【モンペ】【女のズボン】【襤褸】【放出衣料】【衣服行商】【衣料高騰】とやや風俗的なものが多いようである。

⨪また、基本的に食が個人一人の命を守るためのものとすれば、住は家族の生活根拠となるものであるから、それを眺めることからは独自の社会性が生まれてくる。また、単に家を持つか否かではなく、住宅に関する社会のシステムもうかがえるところが食より深みの増してくるところである。

「住」の1回目としては、あまり細かなものではなく住宅そのものに対する絶望を掲げてみる。
「⨪⨪」は住まいだけでなく、職場さえ定まらないと言う意味を持っている。「⨪⨪⨪」に出てくる「家欲し」は、単に住宅を望んでいるものだけではない点において流離と共通する。このように、流離と飢餓は、市民の中に根付いた戦後の深い傷であった。それが消えたとき戦後は忘却されたのである。

【流離】

白き蟵縫ひて流離のおもひまた 寒雷 22・3 渡辺朔 
流転又梅雨の旅籠に病み伏しぬ ホトトギス 22・10 樫木祠狙 
虫の秋行商流弁続くなり ホトトギス 22・10 藤田美乗 
十年流離の窓の向日葵うしろむき 氷原帯 24.11 橋本斧鍼 
流離の背を向けて春の飛雪にも 氷原帯 25・5 遠藤峡川 
雁なけば流寓の天ふかきかな 青玄 25.11 安木白彦 
鬼灯をふくみて流離かなしからむ 氷原帯 26・4 齋藤紀久恵 
寒星や流離の父子へいたく降る 氷原帯 26・7 小野修二 
流離の瞳はまなすの紅砂を炊く 氷原帯 27・12 見澤一鬼 
飴なめて流離悴むこともなし 野哭 加藤楸邨 
斑猫の飛ぶに遅るる流離の荷 雪櫟 森澄雄 
向日葵は日を追ふ流離の借廂 明日 富永寒四郎

【住宅難】
火取虫家持たぬ顔ばかりかな 俳句研究 21・9 加藤楸邨 
借家なき裏町つばめしきり飛ぶ 曲水 23・7 新田三四郎 
蓬莱や下間に住むも一世帯 曲水 24・3 飯塚杏里 
かくて大阪の冬も過ぐ住む家もなく 浜 26・3 目迫秩父 
燕来るや売家札見ることに疲れ  曲水 26・7 岡雨江 
家ほしや冬天井の釘の列に 氷原帯 27・5 岸哲生 
舗道灼け溶岩のごとしや家欲しや 氷原帯 27・11 北光星 
溢れ咲くばら垣見つつ家を欲る 石楠 28・7 村田青い壺 
羽蟻の夜我家てふものいつの世に 雨覆 石田波郷

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