2018年9月28日金曜日

第98号

●更新スケジュール(2018年10月12日)

*発売中!*
冊子「俳句新空間」No.9 
特集:金子兜太追悼
   平成雪月花句集
*購入は邑書林まで

第4回攝津幸彦記念賞発表! 》詳細
※※※「豈」60号・「俳句新空間」No.8に速報掲載※※※

各賞発表プレスリリース
豈60号 第4回攝津幸彦記念賞発表 購入は邑書林まで




「兜太TOTA」創刊号の刊行――兜太元年へ








【「BLOG俳句新空間」100号記念】
特集『俳句帖5句選』その1   》読む



平成三十年 俳句帖毎金00:00更新予定) 
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平成三十年 夏興帖

第七(9/28)木村オサム・のどか・真矢ひろみ・前北かおる・堀本 吟
第六(9/21)下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・渕上信子
第五(9/14)青木百舌鳥・早瀬恵子・坂間恒子・近江文代・北川美美
第四(9/7)加藤知子・夏木久・飯田冬眞・田中葉月・渡邊美保
第三(8/31)辻村麻乃・中西夕紀・杉山久子・山本敏倖・神谷 波
第二(8/24)大井恒行・曾根 毅・網野月を
第一(8/17)松下カロ・小林かんな・西村麒麟・仙田洋子・岸本尚毅



平成三十年 花鳥篇
補遺(8/24)早瀬恵子・浅沼 璞・北川美美
第八(8/10)青木百舌鳥・井口時男・花尻万博・小野裕三・飯田冬眞・佐藤りえ・筑紫磐井
第七(8/3)加藤知子・西村麒麟・水岩 瞳・ふけとしこ・中村猛虎・仲寒蟬
第六(7/27)岬光世・依光正樹・依光陽子・近江文代
第五(7/20)前北かおる・望月士郎・林雅樹・下坂速穂
第四(7/13)岸本尚毅・渡邊美保・神谷 波・木村オサム・堀本吟・内村恭子
第三(7/6)坂間恒子・網野月を・渕上信子・田中葉月・山本敏倖・原雅子
第二(6/29)椿屋実梛・夏木久・杉山久子・小沢麻結
第一(6/22)仙田洋子・辻村麻乃・松下カロ・曾根 毅



【新連載・辻村麻乃特集】
麻乃第2句集『るん』を読みたい
はじめに   筑紫磐井  》読む



【新連載・黄土眠兎特集】
眠兎第1句集『御意』を読みたい
1 『御意』傍らの異界   大井さち子  》読む
2 つくることの愉しみ   樫本由貴  》読む
3 相克する作句姿勢~黄土眠兎第一句集『御意』~   川原風人  》読む
4 黄土眠兎はサムライである。   叶 裕  》読む
5 生活者の目線   天宮風牙  》読む
6 御意てっ!   仲田陽子  》読む
7 重なる日常と不思議   本多伸也  》読む
8 私の声が言葉の声であること   曾根 毅  》読む
9 北京ダックまでは前菜花氷   森本直樹  》読む
10 出会うべくして――『御意』を詞書から探る   岡村知昭  》読む
11 案外な  黄土眠兎句集『御意』を読む   久留島 元  》読む
12 仲間たちへ   三木基史  》読む
13 敵 黄土眠兎句集『御意』を読む   中山奈々  》読む


【新連載・西村麒麟特集2】
麒麟第2句集『鴨』を読みたい
0.序に変えて   筑紫磐井  》読む
1.置いてけぼりの人  野住朋可  》読む
2.ささやかさ  岡田一実  》読む
3.乗れない流れへの強烈な関心  中西亮太  》読む
4.ある日の麒麟さん句会  服部さやか  》読む
5.千年宇宙のパースペクティブ  佐藤りえ  》読む
6.鴨評   安里琉太  》読む
7.水熱く――西村麒麟『鴨』の一句   堀下翔  》読む
8.私信 麒麟さんへ   藤井あかり  》読む
9.西村麒麟句集「鴨」を読む -多様な光―   小沢麻結  》読む



【新連載】
前衛から見た子規の覚書  筑紫磐井 
(1)子規の死   》読む
(2)子規言行録・いかに子規は子規となったか①   》読む
(3)いかに子規は子規となったか②   》読む
(4)いかに子規は子規となったか③   》読む
(5)いかに子規は子規となったか④   》読む
(6)いかに子規は子規となったか⑤   》読む
(7)いかに子規は子規となったか⑥   》読む
(8)いかに子規は子規となったか⑦   》読む
(9)俳句は三流文学である   》読む
(10)朝日新聞は害毒である   》読む
(11)東大は早稲田に勝てない   》読む
(12)子規別伝1・子規最大のライバルは落合直文   》読む
(13)子規別伝2・直文=赤報隊・東大古典講習科という抵抗   》読む
(14)(9-2)俳句は三流文学である――続編   》読む
(15)子規別伝3・新体詩の創始者落合直文   》読む
(16)子規別伝4・明治書院・大倉書店と落合直文   》読む





【—俳句空間—豈weeklyアーカイブ】
■第0号(創刊準備号)●俳句など誰も読んではいない・・・高山れおな  》読む

■第0号(創刊準備号)●アジリティとエラボレーション・・・中村安伸  》読む




【抜粋】
〈「俳句四季」10月号〉俳壇観測189 
盛夏の語り部たち――大久保白村と江里昭彦
筑紫磐井 》読む


  • 「俳誌要覧2016」「俳句四季」 の抜粋記事  》見てみる



<WEP俳句通信>




およそ日刊俳句空間  》読む
    …(今までの執筆者)竹岡一郎・青山茂根・今泉礼奈・佐藤りえ・依光陽子・黒岩徳将・仮屋賢一・北川美美・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保 … 
    • 9月の執筆者 (柳本々々・渡邉美保) 

      俳句空間」を読む  》読む   
      …(主な執筆者)小野裕三・もてきまり・大塚凱・網野月を・前北かおる・東影喜子
       好評‼大井恒行の日々彼是  》読む 





      —筑紫磐井最新編著—
      虚子は戦後俳句をどう読んだか
      埋もれていた「玉藻」研究座談会
      深夜叢書社刊
      ISBN 978-4-88032-447-0
      ¥2700
      アマゾン紀伊國屋ウェブストア他発売中


      「兜太 TOTA」創刊号
      アマゾン藤原書店他発売中




      *発売中*
      冊子「俳句新空間」No.8 
      特集:世界名勝俳句選集
      購入は邑書林まで

      【新連載・辻村麻乃特集】麻乃第2句集『るん』を読みたい・はじめに

      はじめに
       辻村麻乃第2句集『るん』が上梓になり、「俳句新空間」で特集シリーズの第4弾として取り上げることとした。このシリーズは、若くして句集を上梓したのもかかわらず、結社の事情で特集を組まれない恵まれない作家のために、BLOGで無制限に批評を進めてもらおうという趣旨で始めたものである。その一部はアーカイブにもなっている。今後の作家論の参考資料にも成るはずである。
       ただ、「恵まれない作家」という言葉が気に触ってか、余り申し出が来ないのだが、若い作家は大体恵まれない作家なのだから大いに申し出て欲しい。辻村氏の句集『るん』は、「俳句界」編集長であった林誠司氏が起業した俳句アトラスの創業本といってもよい。新しい俳句出版社は、若い俳人たちにとてもありがたいことであるから、非力ではあるがこれが何らかの支援になれば幸である。
       今回の句集は、実は私が序文を書くことになり、ちょっと変則的だが第1回は私の序文をそのまま掲載することとした。依頼した作品鑑賞は第2回から始まることになる。
      滅多に句集を眼に触れることがない人々に句集を選ぶ指針となるような記事と成れば幸いと思っている。ご愛読いただきたい。


         序文・感想文
                     筑紫磐井

       僕が送ってもらった第一句集『プールの底』では、いまより若いはずだけど彼女(辻村麻乃)はもっと年を取っていて、不思議な町に住んでいた。常識も通じない、言語も通じない、全くの異邦である。俳句を詠んでいると見るから読者とはつながりがあるように見えるが、それがなければ気持ちのつながりさえ感じられないかも知れない。

       ばたばたと死に際の蟬救へない
       長き夜が暗くて深い穴となる


       こうして一生異国に棲んでいると思えた彼女だが、第二句集『るん』では、やっと父母の国日本に戻り、若返って、幼くなって僕の隣町に住み始めた。

       電線の多きこの町蝶生まる


       確かにこの風景は日本だ。しかし、まだ成田に降りたばかりで、そのまま真っ直ぐ渋谷に連れられてきてしまった女の子の目を感じる。

       やがてこの子は、隣町から越境して僕の学校に入学してきた。事情は知らないが、風が吹き、窓ガラスがコトコト揺れる、変な日だった。偶然この子は僕と同じクラスになり、僕のとなりの席をもらう。先生は「遠い国からやってきた子だからみんな仲良くするように」という。不思議なことに教科書も持っていない。「教科書もない国から来たの?」と聞くと笑っている。ノートをのぞくときれいな字でこんなことを書いている。

       肯定を会話に求めゐて朱夏
       出目金も和金も同じ人が買ふ
       夏帯に渡せぬままの手紙かな
       日本地図能登を尖らせ秋麗
       夜学校「誰だ!」と壁に大きな字  
       アネモネや姉妹同時に物を言ふ
       病床の王女の如きショールかな
       狐火やここは何方の最期の地
       我々が我になるとき冬花火


       外国から来た子(帰国子女)は、別に差別するわけではないけれど、どこか不思議な世界を持っている。この子は特にそうだった。僕たちの日常持っている回路と、どこか分からないが外れている。間違っているわけでもない、悪いわけでもない。ただ話をしていると、同級生のだれかれと通じる話が、この子と話しているとふっと道筋が消えてしまうのだ。これは僕の方がおかしいのだろうか。この子も同じ気持ちらしく、時折黙って僕の目を見ている。
       ふと考えてみる――この子のいた国はいったいどこだったのだろうか。余り馴染みのない国のようだが、イスラムとか、スラブとか。しかし、馴染みがないと言ってもそういう馴染みなさとは違うようだ。それは肉体と繋がった異邦性だ。もっと精神的な、馴染みにくさがこの子にはある。

       さて、僕に豪放磊落な叔父さんがいた。つい先日、今年の二月二〇日になくなったのだが、特に僕に親切にしてくれた人で、一時さびしい思いをしたものだ。この子にそんな話をしたせいか、彼女のノートにこんなことが書かれているのを見たことがある。

       春嶺や深き森から海の音
       秩父町爆破するごと冬花火


       山奥に住んでいた叔父さんにふさわしいと思った。この子も僕の話を聞いてあの叔父さんが好きになったらしい。だけど、果たしてこの子はあの有名な叔父さんのことを知っているのだろうか。何も分かっていないようでありながら、何でも知っているように思える。不思議な子だった。

       谷底に町閉じ込めて鳥曇
       砂利石に骨も混じれる春麗
       午前二時廊下の奥の躑躅かな
       珈琲粉膨らむまでの春愁
       仮紐を幾度も解きて月朧
       燕の巣そろそろ自由にさせやうか


       ある春の風のつよい日、僕は学校に出かけるとき、あの子はもういなくなっているような気がした。どこかでそんな話を読んだ記憶がある。お父さんにつれられて、遠い町に行ってしまうのだ。
       しかし教室の戸を開けると、その子はちゃんとまだいて、笑いかけた。そしていつも書いているノートを僕に渡して、読んでもいいと言った。題名のないノートには、いま見てみると、新しく題が書かれている。「るん」とあった。
       だから僕は今日それを持って帰って、感想を書かねばならない。

       いまノートを読みながら僕は全然別のことを考え始める。以前考えた、あの子のいた国は、国境のある国ではなかったのではないか。もっとこころの国だ、言葉だけから出来ている国だ。あの子は詩の国から来たのではないか。僕の叔父さんは、俳句の国の王様だといって威張っていたが、日本に住んでいると俳句の国の人間となってしまうのだ。だからあの子は、詩の国から俳句の国へやってきてとまどっているのだろう。――いやそうではない、俳句の国に住んでいる僕たちが、自由な詩の国からやってきたあの子の言葉を見、あの子と話をしてとまどっているだけなのだ。
       さあ、明日どんな感想をいえばいいのだろう。教科書には何も書いてない、教科書なんてないのだから。いま考えているこんなことを言っても、やっぱりわけがわからないといわれるかも知れない。また明日も風のつよい日になりそうだ。


      【新連載・黄土眠兎特集】眠兎第1句集『御意』を読みたい13 敵 黄土眠兎句集『御意』を読む 中山奈々

       バイトの帰りにチョコアイスキャンデーを買う。店を出た瞬間に袋から出し、嚙み付く。しゃり。色も匂いもチョコレートなのだけど、濾していったら、どうせ水なんだろう。しゃり。あまりにはやく嚙りすぎて、アイスが悪態をつく頰を強張らせる。しゃり。寒い。まだ梅雨入り宣言はされていないが、雨上がりの冷ややかさが梅雨のようである。その寒さ血の気が引く。どこかに意識が飛んでいくようだ。目に映るのは、ちらほら咲きはじめた紫陽花。
       かつてシーボルトは、紫陽花を自国に持ち帰るときに妻の名前をつけた。淡い記憶の中の、儚い思い。はっきりしない色合いが紫陽花のよいところなのだ。桜にしてもそうだ。薄いピンクの、あるいは白の、咲いてはすぐに散ってしまう姿に世の儚さを馳せずにはいられない。
       なんてことは、全然考えたこともない。そんな現実主義にして実力主義のなかに生きた男がいる。
       場所は大坂の適塾。身分制度が確固なものとしてあった江戸時代において、実力主義の世界を展開する。蘭方医・緒方洪庵の塾だが、その講義内容は多岐に渡った。たった一冊の蘭和辞書「ヅーフ・ハルマ」を置いた通称・ヅーフ部屋の灯は絶えることがなかったという。切磋琢磨、といえば聞こえがいい。自分が、この横に座る男よりも上に上がらなければ、安眠も出来ない。そう、塾生の寝床の位置は成績で決まる。上位は部屋奥で堂々と眠ることができる。下位は部屋の入り口―階段に繋がる板の間―で、厠へ行く者たちに踏まれ、寝相が悪ければ、蒲田行進曲ばりに階段を転げ落ちる。〈天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、といへり。〉しかし登っていくものも落ちていくものもあるわけである。

       櫻蘂降る適塾の虫籠窓     黄土眠兎

       桜の花弁のちりは潔いが、あとからゆったりと降る桜蘂。スローモーションのなかにも鋭さはある。適塾の柱には無数の刀傷がある。儚さを憂いている場合ではない。勉学への果敢さを見せていかなければ。そのあと花は葉に変わり、万緑のもとにたくさんの蟬をもって栄えるのである。
       蟬の命だって儚いって? 次の年も次の年も湧いて出てくるだろう。日本という大本がしっかりしていれば、蟬も安心して出てこれる。
       黄土眠兎句集『御意』にはお金の俳句が多いといわれる。掲句も見ようによったらお金なのだ。だって、適塾第十代塾長は誰であろう、一万円の肖像、福沢諭吉そのひとである。ちなみにわたしのGmailのアドレスは金が舞い込むかと思い、【tekijyukujyukutyou】としているが、金とは縁遠い。

       緑蔭によつてたかつて秘密基地

       政治は見えにくい。だから俳句をやっているひとたちのなかにも政治的なものがあってもはっきり見えない。それは緑蔭でやっているからか。目を凝らしたら見えるのか。しかし。飛蚊症激しいこの近眼には緑蔭よりも、遠くの山の緑がよいらしい。その山にはビッグフッドがいるかもしれない。その方が楽しい。仲間を作ることもいいが、ライバルを作ってみるのもいい。
      敵。
      敵。
      敵。
       黄土眠兎は充分な敵である。

      【「BLOG俳句新空間」100号記念】特集『俳句帖5句選』その1

      BLOG「俳句新空間」では、10月下旬号を持って100号に到達する。多くの雑誌、BLOGのある中で取り立てて偉業と呼ぶほどではないが、節目を迎えたことは自覚したい。
      特に前身の「俳句空間」は評論中心の編集をしていたが、「俳句新空間」からは自選俳句を掲載するようになった。
      そこで、本号からしばらく、平成25年1月以来のBLOG俳句帖(歳旦帖、春興帖、花鳥篇、夏興帖、秋興帖、冬興帖)に掲載した作品5句を精選して掲載する。『俳句帖五句選』と呼ぶ。
       現在参加者に依頼して順次作品を送っていただいており、今回はその第1回目となる。まとまったところで、総合選評も依頼したいと思う。

      (ちなみに、年2回刊行の雑誌「俳句新空間」の第10号も近く刊行される予定である。こちらは平成26年に創刊された雑誌「俳句新空間」1~9号までに掲載された自作の新作20句等の中から精選10句を選び自選の『新作10句選』として掲載する予定。)

      * * *



      飯田冬眞
      福寿草宦官の沓滑らかに  (第2号) 
      凩や死者も生者も海より来 (第5号)
      革命の前夜静かに蟹来たる (第20号)
      虫の闇木馬に体ゆだねをり (第30号)
      残菊や紫煙まみれの未定稿 (第30号)



      浅沼璞
      脇息に開く春雨物語
      実朝の石の烏帽子の風光る
      俺は津までお前も津まで花筏
      霧雨の霧を嗅ぎ分け来よ鬼よ
      障子貼る手長足長ろくろ首


      内村恭子
      野を濡らし木椅子を濡らし夏の雨
      応接間いつもひんやり風光る
      世紀末の重さの鍵や風死して
      玉葱剥く銀河の外に銀河あり
      秋灯し壁をはみ出す天使像



      【抜粋】〈「俳句四季」10月号〉俳壇観測189 盛夏の語り部たち――大久保白村と江里昭彦 筑紫磐井


      (前略)
      ●江里昭彦氏の「ジャム・セッション」
       戦争とは関係ない、戦後の事件である。
       平成一一年に起こったオウムサリン事件は一三人の死刑が確定し、この七月六日に七人の、二六日に六人の死刑が執行された。このうち最初に死刑執行された七人の中の一人、中川智正死刑囚は、江里昭彦氏の刊行する雑誌「ジャム・セッション」に俳句作品や文章を発表していた。
       七月三一日に刊行された第一三号には、恐らく中川最後と思われる作品と文章が掲載されている。編集作業が終了した段階では中川の死刑が執行されていなかったので、この雑誌も通常号として編集されている。
       この雑誌で驚くのは、「私をとりまく世界について」という中川の連載で、身辺記事から始まり、事件の経緯まで驚くほど詳細に語られている点である。本号では麻原の生活が余すことなく描かれている。また、前の号では毒ガスを使った経験者として、金正男VXガス暗殺事件のためにマレーシア警察から意見聴取を受けているがその詳細についても書かれている。刑務所の、特に死刑囚の管理の厳しさを予想されている向きには驚く程自由な書きぶりに驚かされるのである。事件の異常さに加えて、それに対する当事者の考えが伺えるという意味で、この雑誌は稀な雑誌と言うことができるだろう。
       ちなみに、この号に掲げてある中川の作品は次のような句である。

            金子兜太氏の逝去に二句
      春荒の秩父や今日は花買う日
      おほかみは兜太の森に眠りけり
      広島や蛇の蛻の目のドーム
      沈みつつまた獄窓の春の月


       冒頭の二句にあるように中川は兜太に大きな関心を持っていた。
       本号後書きで江里昭彦氏は(ちょうど二月になくなった)兜太追悼記事を書いているが、その末尾に「ジャム・セッション」が新聞に紹介されたときに兜太が中川の句を評してくれた顛末を記している。兜太は、中川の句を、青年期を詠んだ句は澄み、柔軟な感性を感じるが、事件後の自分を読んだ句は硬い、と述べている。概ね的確な評であろう。それを中川は非常に喜んでいたという。
       雑誌「ジャム・セッション」に同封した別紙で江里氏は、本号は通常号であり、今後二号(なぜなら本誌は年二回刊)出した後の来年七月六日の中川の祥月命日を以て「ジャム・セッション」を終刊(一五号)すると宣言している。まさに中川とともにあった雑誌として歴史に残るであろう。

      ※詳しくは「俳句四季」10月号をお読み下さい。

      2018年9月14日金曜日

      第97号

      ●更新スケジュール(2018年9月28日)

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      冊子「俳句新空間」No.9 
      特集:金子兜太追悼
         平成雪月花句集
      *購入は邑書林まで

      第4回攝津幸彦記念賞発表! 》詳細
      ※※※「豈」60号・「俳句新空間」No.8に速報掲載※※※

      各賞発表プレスリリース
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      「兜太TOTA」創刊号の刊行――兜太元年へ






      平成三十年 俳句帖毎金00:00更新予定) 
      》読む

      平成三十年 夏興帖

      第五(9/14)青木百舌鳥・早瀬恵子・坂間恒子・近江文代・北川美美
      第四(9/7)加藤知子・夏木久・飯田冬眞・田中葉月・渡邊美保
      第三(8/31)辻村麻乃・中西夕紀・杉山久子・山本敏倖・神谷 波
      第二(8/24)大井恒行・曾根 毅・網野月を
      第一(8/17)松下カロ・小林かんな・西村麒麟・仙田洋子・岸本尚毅



      平成三十年 花鳥篇

      補遺(8/24)早瀬恵子・浅沼 璞・北川美美
      第八(8/10)青木百舌鳥・井口時男・花尻万博・小野裕三・飯田冬眞・佐藤りえ・筑紫磐井
      第七(8/3)加藤知子・西村麒麟・水岩 瞳・ふけとしこ・中村猛虎・仲寒蟬
      第六(7/27)岬光世・依光正樹・依光陽子・近江文代
      第五(7/20)前北かおる・望月士郎・林雅樹・下坂速穂
      第四(7/13)岸本尚毅・渡邊美保・神谷 波・木村オサム・堀本吟・内村恭子
      第三(7/6)坂間恒子・網野月を・渕上信子・田中葉月・山本敏倖・原雅子
      第二(6/29)椿屋実梛・夏木久・杉山久子・小沢麻結
      第一(6/22)仙田洋子・辻村麻乃・松下カロ・曾根 毅



      【新連載・黄土眠兎特集】
      眠兎第1句集『御意』を読みたい
      1 『御意』傍らの異界   大井さち子  》読む
      2 つくることの愉しみ   樫本由貴  》読む
      3 相克する作句姿勢~黄土眠兎第一句集『御意』~   川原風人  》読む
      4 黄土眠兎はサムライである。   叶 裕  》読む
      5 生活者の目線   天宮風牙  》読む
      6 御意てっ!   仲田陽子  》読む
      7 重なる日常と不思議   本多伸也  》読む
      8 私の声が言葉の声であること   曾根 毅  》読む
      9 北京ダックまでは前菜花氷   森本直樹  》読む
      10 出会うべくして――『御意』を詞書から探る   岡村知昭  》読む
      11 案外な  黄土眠兎句集『御意』を読む   久留島 元  》読む
      12 仲間たちへ   三木基史  》読む


      【新連載・西村麒麟特集2】
      麒麟第2句集『鴨』を読みたい
      0.序に変えて   筑紫磐井  》読む
      1.置いてけぼりの人  野住朋可  》読む
      2.ささやかさ  岡田一実  》読む
      3.乗れない流れへの強烈な関心  中西亮太  》読む
      4.ある日の麒麟さん句会  服部さやか  》読む
      5.千年宇宙のパースペクティブ  佐藤りえ  》読む
      6.鴨評   安里琉太  》読む
      7.水熱く――西村麒麟『鴨』の一句   堀下翔  》読む
      8.私信 麒麟さんへ   藤井あかり  》読む
      9.西村麒麟句集「鴨」を読む -多様な光―   小沢麻結  》読む



      【新連載】
      前衛から見た子規の覚書  筑紫磐井 
      (1)子規の死   》読む
      (2)子規言行録・いかに子規は子規となったか①   》読む
      (3)いかに子規は子規となったか②   》読む
      (4)いかに子規は子規となったか③   》読む
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      (7)いかに子規は子規となったか⑥   》読む
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      (10)朝日新聞は害毒である   》読む
      (11)東大は早稲田に勝てない   》読む
      (12)子規別伝1・子規最大のライバルは落合直文   》読む
      (13)子規別伝2・直文=赤報隊・東大古典講習科という抵抗   》読む
      (14)(9-2)俳句は三流文学である――続編   》読む
      (15)子規別伝3・新体詩の創始者落合直文   》読む
      (16)子規別伝4・明治書院・大倉書店と落合直文   》読む





      「現代」と言うこと――水原秋桜子展に寄せて  筑紫磐井  》読む


      季重なりについて     筑紫磐井   》読む




      【—俳句空間—豈weeklyアーカイブ】
      ■第0号(創刊準備号)●俳句など誰も読んではいない・・・高山れおな  》読む

      ■第0号(創刊準備号)●アジリティとエラボレーション・・・中村安伸  》読む




      【抜粋】
      〈「俳句四季」9月号〉俳壇観測188 
      俳壇観測・三つの協会のおいたち――何を基準に協会は別れ、存在しているか
      筑紫磐井 》読む


      • 「俳誌要覧2016」「俳句四季」 の抜粋記事  》見てみる




      <WEP俳句通信>




      およそ日刊俳句空間  》読む
        …(今までの執筆者)竹岡一郎・青山茂根・今泉礼奈・佐藤りえ・依光陽子・黒岩徳将・仮屋賢一・北川美美・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保 … 
        • 9月の執筆者 (柳本々々・渡邉美保) 

          俳句空間」を読む  》読む   
          …(主な執筆者)小野裕三・もてきまり・大塚凱・網野月を・前北かおる・東影喜子
           好評‼大井恒行の日々彼是  》読む 





          —筑紫磐井最新編著—
          虚子は戦後俳句をどう読んだか
          埋もれていた「玉藻」研究座談会
          深夜叢書社刊
          ISBN 978-4-88032-447-0
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          特集:世界名勝俳句選集
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          「兜太TOTA」創刊号の刊行――兜太元年へ (編集長 筑紫磐井)

           昨年5月、金子兜太氏が白寿を以て主宰する「海程」誌を終刊し、今後は自由な活動を始めると宣言されたところから、『存在者 金子兜太』(藤原書店2017年4月刊)に執筆参加した兜太氏と関係の深い有志により、新しい雑誌の企画が立てられました。これについては兜太氏の賛同も得て準備は着々として進められましたが、不幸なことに本年2月に98歳をもって兜太氏は急逝されました。
           藤原書店では、インタビューを始め雑誌の準備が相当進んでいたところから、当初の企画を変更し1冊の本として「兜太TOTA」を出版する計画を立てました。
           この新しい企画では兜太氏を中心としつつも、俳句にこだわらない「存在者」としての兜太氏の全存在を描きたいと考え、その意味では、俳句作家だけではなく、文芸、文化、芸術、思想関係の方のご参加を得て行く事としました。兜太氏の「存在者」の姿が、これにより、浮かび上がるものとなることを信じております。短詩型文学において稀有の存在である金子兜太氏の百年にわたる業績と生き方をこの時期にあたり再確認したいと考えます。
           また、これと併行して、「雑誌『兜太 TOTA』創刊記念シンポジウム 〈兜太を語り TOTAと生きる〉」(2018年9月25日有楽町朝日ホール)、「兜太と未来俳句のための研究フォーラム」(2018年11月17日津田塾大学 千駄ケ谷キャンパス)を行います。よろしくご協力お願いします。


          【雑誌「兜太 TOTA」創刊号 目次】  2018年9月25日刊


          〈名誉顧問〉金子兜太 〈編集主幹〉黒田杏子 〈編集長〉筑紫磐井
          〈編集委員〉井口時男 伊東乾 坂本宮尾 中嶋鬼谷 橋本榮治 横澤放川 
          〈編集顧問〉瀬戸内寂聴 ドナルド・キーン 芳賀徹 藤原作弥

          〈口絵〉現役大往生の人――最晩年の金子兜太 撮影=黒田勝雄

          辞世              金子兜太 コメント=黒田杏子
          なぜ戦争はなくならないか    金子兜太

          ■創刊の辞    
          創刊のことば          黒田杏子 筑紫磐井
          創刊に寄せて――編集顧問のことば
                    瀬戸内寂聴  ドナルド・キーン  芳賀徹  藤原作弥

          ■兜太郎レクイエム
          追悼句十二選         十二氏
          兜太哀悼           佐佐木幸綱
          追悼の辞 宮坂静生/金子眞土/黒田杏子/長谷川櫂/関悦史
          兜太追悼歌仙 爆心地の巻   捌 長谷川櫂 連衆=宮坂静生・黒田杏子

          ■〈特集〉一九一九 私が俳句
          兜太 生インタビュー(1)    金子兜太 聞き手 筑紫磐井

          Ⅰ 兜太と時代
          誰にも見えなかった近・現代俳句史
          ――虚子の時代と兜太の時代          筑紫磐井
          三本のマッチ――前衛・兜太                  井口時男
          〈コラム〉
          大花火                    下重暁子
          兜太さんの背中                澤地久枝
          日銀と兜太                  藤原作弥

          Ⅱ 兜太と物故作家たち
          詞によせて――伊昔紅、そして兜太       橋本榮治
          兜太と草田男                    横澤放川
          まつろはぬ民の血――楸邨・兜太の原郷           中嶋鬼谷
          兜太と珊太郎――月光仮面のように       坂本宮尾
          〈コラム〉
          火星と国王と野糞               高山れおな
          春を吐く兜太先生               夏井いつき
          金子兜太氏が訴えた危機            窪島誠一郎

          Ⅲ 兜太と世界
          海外における金子兜太の俳句について            アビゲール・フリードマン
          世界を魅了する「俳諧自由」                  マブソン青眼
          TOTAL――紛争と国境を越えて             伊東乾

          ■金子兜太の生涯   
          存在ひとすじに                                       宮崎斗士
          〈カット〉                               池内紀

          定価: 1,296円

          藤原書店
          〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町523
          電話     03-5272-0301  ファクシミリ     03-5272-0450

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          【抜粋】〈「俳句四季」9月号〉俳壇観測188/俳壇観測・三つの協会のおいたち――何を基準に協会は別れ、存在しているか   筑紫磐井

           俳人協会に入会した若手の無季句がこのところ目立つという批判が出ている(「群青」二月号)。確かに無季俳句を含めた俳人協会員の句集がこのごろ多く出ている。
           「協会の成り立ちを知れば、無季の句は歓迎されないことが分かる」というのだが、残念ながら協会の成り立ちを知っている人は全て死に絶え、間接的にしか語られていない。若い人たちが協会の成り立ちを知らないことをあながち責めるわけにはいかないだろう。そこで今回は、若い人たちのために、協会の成り立ちをたどってみることにしたい。

          「どうして三つの協会が出来たのですか」――現代俳句協会と俳人協会

           現在俳壇には三つの協会がある。現代俳句協会、公益社団法人俳人協会、公益社団法人日本伝統俳句協会である。このほかに国際俳句交流協会があるがこれは国際交流という機能に特化しているからここでは触れない。
               *      *
           (現代俳句協会に関しては省略)・・・昭和三〇年代の社会性俳句、造型俳句の隆盛とともに、草田男と兜太――創設グループと戦後派世代の対立が激しくなった。特に季語をめぐる論点は激しく対立した。遂に草田男は昭和三六年末、現代俳句協会幹事長を兼ねたまま俳人協会を発足させ、現俳協から幹事長不信任を受け退会している。
           発足した俳人協会は、発足当時の幹事を見ると、草田男等の人間探求派、三鬼等の新興俳句の作家(現代俳句協会の創設メンバー)に加え、元日本文学報告会俳句部会の主要幹部であった秋桜子、風生、飯田蛇笏等が復活しており(既に虚子は亡くなっていた)、一方戦後作家は角川源義ただ一人であった。現代俳句協会の創設メンバーと文学報国会幹部、角川書店の三者協同により、戦後派作家を排斥する形で発足したと見ることが出来る。
           このような経緯から、現代俳句協会は無季派と有季派が混在し(現代俳句協会の『現代俳句歳時記』では無季の部立てが存在している)、俳人協会は有季の作家が圧倒的に多い。にもかかわらず、俳人協会定款(根本規則)では無季を排斥してはおらず、むしろ無季排除はその時々の会長の政策と見るべきかも知れない(俳人協会会員の林翔、岸田稚魚らはアンケートで無季容認と回答している)。例えば、松崎鉄之介会長時代は、有志作家による形で、俳句教科書出版社に対し無季俳句を教科書に載せないように強く要請している。

          「どうして三つの協会が出来たのですか」――日本伝統俳句協会

           創設時の俳人協会事務所は角川書店内に置かれた。これに伴い、角川書店と現代俳句協会の蜜月時代は終了し、対立時代に入ったのである。しかし、やがて牧羊社(総合誌「俳句とエッセイ」やシリーズ句集で一世を風靡した)という第三勢力出版社の登場等に伴い、こうした対立は輪郭がぼやけてきた。特に「俳句」の名編集長秋山みのるによる「結社の時代」キャンペーンによりこうした対立図式がほぼ崩壊したのである。
               *     *
           この時期に前後して登場したのが、日本伝統俳句協会である。稲畑汀子氏が中心となり、俳人協会よりピュアに、伝統俳句とは「有季定型の花鳥諷詠詩」であると定款(根本規則)に宣言して発足した。虚子によれば花鳥諷詠では、四季以外には社会にも関心を持ってはならないこととされるから、俳句の範囲は俳人協会のそれより一層狭く、かつ求心力を高めたものとなった。
           きっかけは朝日俳壇選者に新しく金子兜太氏が就任したことに伴い伝統俳句の未来に危機感を持った稲畑氏が協会の設立を決心したことにある。これに対し、支持を示したのが三笠宮殿下、更に協会を公益法人化することを強く勧めたのが塩川正十郎文部大臣であった。大臣の指示の下、高石文部次官(後日リクルート事件で逮捕)等の文部官僚の積極的協力により、六二年九月に審査開始、反対投書があったものの、いち早く六三年一二月二一日には認可を受けている。当時の文部省の文化普及課長は、法人化は最低三年かかるが、ホトトギスが後ろ盾にあること、大臣からの申し入れもあり、例外中の例外として早期に認可するといっている(『大久保武雄―桃青―日記』平成二三年北溟社刊)。同業種で公益法人は一つしか認めないという不文律にもかかわらず公益法人認可が行われた。ここに稲畑氏の尽力で、「有季定型」が恣意的にではなく、公の文書として初めて認められることとなったのである。

           ※詳しくは「俳句四季」9月号をお読み下さい。
           

          【新連載・西村麒麟特集2】麒麟第2句集『鴨』を読みたい9 西村麒麟句集「鴨」を読む -多様な光―   小沢麻結

           今回、幸運にも初めて纏まった西村麒麟氏の作品を読む機会を頂いた。第二句集「鴨」は、西村氏のプリズムを通した柔らかな光が放つ一冊と思量する。惹かれた句を以下に挙げる。

          宝舟ひらひらさせてみたりけり

          雛納め肌ある場所を撫でてをり

           一句目、七福神などを乗せた宝舟の絵は、元旦か二日の夜に枕の下に敷いて寝ると良い初夢が見られるとされているいわば縁起物。舟は重量度外視のお宝を積み、描かれた七福神も皆破顔、お目出度い雰囲気に溢れている絵だ。珍しくてひらひらさせてみることはするかもしれないが、それを句に詠める人はなかなかいないのではないだろうか。そこを句にできるところが西村氏だと思うのである。ひらひらさせたなんて言ってしまったら満載の宝がちょっと零れ落ちてしまいそうだし、夢の効果が半減してしまいそうだし。だがこの行為が正月の晴れやかさと通底しており、目出度すぎずに新年の句として成立させている点、手際よい。
           二句目、一読、句の作者は男性とわかる。来年まで会うことのない雛人形を愛しむのは女性で、髪はそっと撫でるかもしれないが顔には直接指で触れないだろう。手や足を撫でるというのも考えにくい。大事な人形を汚さないように配慮が働くからだ。作者は雛納を手伝いながら興味を持ち撫でてみた、という句だろうか。中七の表現から、着物から出ている手足を撫でたのだろう。確かに細くて、硬そうで、つるっとしていて、触感を試したくなるかもしれない。
           二句に共通し、遊び心―茶目っ気―が溢れている。

          裏返るその盆唄を愛すなり

          山の名を知らぬまま行く紅葉狩

           この二句にはぶれない潔さがある。
           一句目、裏返るそこがいいのかもしれないし、盆唄としての哀愁が漂う。何気ない表現にきちんと季題の本質が押さえられている。
           二句目、大事なのは其処が何処か(場所)という点ではなく、紅葉狩り(内容)であって、誘われて共に行く人なのかもしれない。だからこそ、その見事な紅葉を観るために、迷いなく深山を踏み分けてゆけるのだ。

          露の世の全ての露が落ちる時

          真つ黒に錆びてゐるのが狐罠

          秋茄子の人数分が水の上

           いずれの句も読み手の想像力を刺激する。見えないものを見せるためのヒントがこれらの句にありそうだ。一句目のその時を想像すると救いようのない静寂が広がる。二句目の今は使われていないが狐罠のこれまでを想像すると狐だけに生々しい。三句目、汲み上げた澄んだ清水に浮く秋茄子の紫紺のつややかさ。私が想像するもてなしの秋茄子は六個だ。

          烏の巣烏がとんと収まりぬ

           写生が効果的な句だ。坐り直す時の描写の中七に実感がある。大切な卵やヒナを羽の下にちゃんと納めて坐った烏が頼もしい。収まったと見て取ったところに安心感があり、季題が動かない。

          作者独特のプリズムが働いた一物仕立ての句が好もしい。以上の句は「北斗賞受賞作品」にはなかった句だ。先に「思ひ出帳」を読んだ時に惹かれた句は、また別にある。

          入社試験大きな声を出して来し

          侍の格好でする鏡割

          草相撲代りに行つて負けにけり


          初雀鈴の如きが七八羽

          浮かんだり沈んだりして鯨かな

          蛍の逃げ出せさうな蛍籠

          鈴虫は鈴虫を踏み茄子を踏み


          八月のどんどん過ぎる夏休み

          最後に、「北斗賞受賞作品」、「鴨」から厳選した十句に共通する二句を挙げたい。

          白玉にひたと触れゐて白玉よ

          秋の昼石が山河に見えるまで

           よく見ることで授かる句が、読み手の心に呼びかけてくる。一句目の中七の触感は「くっついている」様を「ひたと触れゐて」と表現したことで白玉らしさを描き切っている。二句目、集中して見入っていると他のものは見えなくなってただ石の形状だけがクローズアップされる。光と影の陰影が明確になる秋の昼に自然のあり様に見えてくるまで石をじっと見る。掲句と対峙していると、静かだが腹を据えた意志の強い句が立ち上がって来る。