2018年5月25日金曜日

【新連載・西村麒麟特集2】麒麟第2句集『鴨』を読みたい8 私信 麒麟さんへ 藤井あかり

 刊行された『鴨』の初めての読者が私であることを思うたび、つい頰が緩んでしまいます。

 数年前、麒麟さんのお宅と私の実家の最寄り駅が同じであるご縁で、麒麟さん・A子さんご夫婦と親しくなりました。近所のカレー屋さんやイタリアン・レストランに行ったり、お花見や忘年会をしたり。
 たいていたわいないおしゃべりに終始して、俳句の話が出ることもたまにあるけれど、「麒麟さんって推敲とかします?」「あんまりしないんですよ」「私もしなくって」などとのんびりしたもの。吟行と称して会っても、書き留めた句を見せ合ったことはなく、でもたしかに句は残っています。
 A子さんはいつも麒麟さんの横でほほ笑んでいます。A子さん自身は俳句を作らなくて、ただただ麒麟さんの俳句を大好きなのが伝わってきます。

 あの日は麒麟さんのお宅に遊びに行っていましたね。
 三人で炬燵に入り、A子さんの絶品おでんと私の林檎ケーキを食べながら、いつものようにおしゃべりしていると、ピンポンとチャイムが鳴って玄関先にドカドカと十数個の段ボール箱が置かれ、その一個目の封が開けられて、一番上の一冊をいただいたのが私でした。
 そのあとはなんだかもう胸がいっぱいになってしまって、はしゃぎすぎてお皿を下げるのも忘れて帰ってしまったこと、ごめんなさい。

 お詫びといつものお礼をかねて『鴨』から「愛妻10句」を選んでみたので、お二人で楽しんでくれたら嬉しいです。

二家族同時にわつと初笑

 笑いのツボが同じってことがまずはめでたいなぁと。

白団扇顔のみ妻の方へ向け

 出会った当時は体ごと向けていたと思うけれど。

鰻重の蓋開けてゐる妻の顔

 変わっていく表情がいとおしい。

端居して妖しきものかいや妻か

 いや、妻って妖しいものなのでは。

踊子の妻が流れて行きにけり

 もう戻ってこないような切なさも。

向き合つてけふの食事や小鳥来る

 おのずと向き合う時間をもてる幸せ。

帰宅して気楽な咳をしたりけり

 外用の咳と家用の咳。

アロハ着て息子の嫁を眺めをり


 これ以上ない気の置けなさ。

妻留守の半日ほどや金魚玉

 自由でさびしい時間。

無花果や妻の幼き頃の本

 懐かしいような、新しいような。

 麒麟さん、『鴨』出版おめでとう。
 それから、A子さんと出会えたこと、改めておめでとう。

 では、また近いうちに。


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