先ずは、帯文を記して置く。
ひまわりの芯の昏さに突き当たる
あのひまわりの中にゴッホの狂気や苦悩を
見ていたのかも知れない (岸本マチ子「序にかえて」より)
それでは句集『針突(はじち)』を私なりに句集鑑賞して行こう。
ものの芽に一斉送信しています
ものの芽とは、春のもろもろの草木の芽のことで春の季語。
一斉送信は、同じメッセージを複数の宛先へ同時に配信する仕組みや手法。
郵便物やインターネットのメールなど「一斉送信する」で御馴染みでしょう。
ものの芽の春の息吹を一斉送信すると詩的言語に昇華した点が斬新。
そこには、作者が春の歓喜を享受しながら他者にも大城あつこ俳句の大らかさで繋げている。
大城あつこさんは、旧・那覇市農連市場(現在・のうれんプラザ)で商いをしていて写真家の私も撮影のためちょくちょくその現場でお会いすることがあった。
午前0時から商いの準備をしているお母(かー)や姉(ねー)さんたち(沖縄では愛称も込めてそう呼んでいる)が居る。
そこのベンチに腰掛けて夜明けまでこの市場模様を観察するのですが、午後2時には、商いをする人たちや農家の人など、野菜などを配達する人や八百屋さんの仕入れに来るお客さん、観光客の見学など雑踏の市場もMAXの賑わい。
・・・・そんな中で私は、眠気に襲われてベンチで眠りっぱなしで起きると夜が明けていて、それでもくたくたになっていて市場の食堂で味噌汁(沖縄ではご飯付き)の朝食を食べてバスに乗り込み最終後部座席で眠りながら沖縄市の家路を走る。
とても那覇市農連市場のお母や姉さんたち夜明け通しの市場の逞しくしなやかな90歳を余る看板娘たちもいてひょろひょろモヤシのような写真家の私は、写真1枚も撮らずに根を上げていたことも多々あった。
人が好きおしゃべり大好きさくらんぼ
市場で働く作者も逞しくしなやかな市場の姉さんのひとり。人が好きでお喋りも大好き。
もちろん手ばかりのようなサクランボのような匙加減で。
銀色がやけに明るい秋刀魚たち
秋刀魚の生き生きとした色艶をよく観察していて脱帽。
待つことの楽しみを知る冬木の芽
市場には、お客さんの通るルートがあるようだ。目当てのお店に品物を買いに行くルート。そこには商品プラスαのお喋りと笑い声が付いてくる。まるで冬木の芽が凛と芽吹いているようにそんな風にお客様をお待ちしています。
無防備な三尺寝の男風みどり
男より女は強い?!市場の男性の中には、夜が明けて市場の配達も終えたのだろう。無防備な三尺寝の男も見受けられた。爽やかな風みどりが吹いて市場自体の胎児のようだった。市場の記録と記憶を俳句に落とし込んでいて愛おしい。
嘘ついた舌でころがす金平糖
市場のお母や姉さんたちの話術は、「嘘も方言」な人間関係の潤滑油の嘘も匙加減にあるのでしょうか。その商魂たくましい舌は市場でも売ってる金平糖の飴玉を転がす。でも「誠(まくとぅ)そーけぇーなんくるないさ」(誠に生きていれば、どうにか良い方向に向かうものさ的な意味)が胸をちくりと突きささるみたいね。嘘も良い嘘、悪い嘘があるさぁ~ね。
そこらじゅう不平不満だ流れ星
市場の女性に限りませんが、逞しくしなやかな女性の多い職場ですので、裏表までは男性陣が踏み込んで見通せませんが、そこら中に不平不満の流れ星も零れ落ちているのかもしれません。恨みつらみも流れ星のようには、笑い飛ばせません。愚痴も零せる相手が有っての花です。
はむえっぐばななすむうじいふらんすぱん
市場の食堂のものをティクアウトで食事していたり、ハムエッグとバナナスムウージー、フランスパンなども職場の腹ごしらえにしていたり。
私だって今まっさかり萩ききょう
市場の女性たちは、当時でもだいぶ平均年齢が高かった。市場で働く女性のいじらしさでしょうか。今が一番、人生を謳歌しております。萩桔梗も花瓶に活けてみましょうね。
さくらさくら口角あげて笑う人
桜のリフレインが効いている。口角あげて笑う人、つまりは営業スマイルかしら。大城あつこさんも笑顔の似合う市場の朗らかな女性のひとりでしたね。
好き嫌いはっきりくっきり唐辛子
好き嫌いも大切な自己防衛です。時には、唐辛子のように。
曼珠沙華かなしいほどに母に似て
父に似てくる。母に似てくる。この句にも俳句によるモノゴトの本質を捉える力がある。
沖縄を代表する詩人のひとり、山之口獏さんの詩「喪のある景色」を彷彿とさせる。
檸檬キュンもうあの日には戻れない
ふらここを漕いで望郷つのらせる
檸檬を切るとスパークするように胸がキュンとなるよね。
「ふらここ」は、ブランコの別名。ブランコを漕ぎながらその鎖は、望郷の故郷までは、飛んでいけない。
今の場所には、今の場所でしか咲かない大切な花が廻るように季節をめぐらせる。
望郷をつのらせながらも大切な人生の道のりを大城あつこさんも俳人としても歩む。
共鳴句を下記に記しておきます。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。
球児等のはじける青さ春近し
啓蟄やもじもじどきどき出番待つ
花曇一抱えほどの更年期
白玉をこねて辻褄あわせている
産声はあるふぁべっとの泡立草
芭蕉布や針突(ハジチ)の過去もつむぎおり
はらわたまで透かされそうな良夜です
闇また闇過疎という地にふる銀河
瓶詰めの春愁ひとつもてあます
未来図に憂国こぼす鉦叩
サフランに染まりだんだん消える過去
今生のたてがみにひく寒紅よ
冬銀河踏み外したいこともある
春愁は眉間にそっと入りこむ
埋火や捨てられぬもの二つ三つ
その先は聞きたくないの一人静
胸中に蛍火ほどの未練あり
身のどこかがんじがらめの八月尽
矛先をやんわりかわす女郎花
白桃をすすり故郷かがやかす
強情をまあるくまるく大根煮る
ひまわりの芯の昏さに突きあたる
からたちの棘一本が抜けぬまま
檸檬嚙むあの一言を悔いており
鬼の子になって哭きたい瞬間もある
心太一途さどっと崩れゆく
土塊を素足で踏めば発光す
臆病者ほたる袋に身を隠す
少女達いつも多感ですいとぴい
いびつなる国の形や万愚節
割りきれぬものはさておき髪洗う
春菜ゆで普通がいちばんと思える日
狂うなら紫陽花群れる雨の中
新樹光指の先までときめかす
倦怠を立夏の海に放り出す
琴線にふれられて落つ寒椿
大花野おんな三人姦しい
解決はさらけだすこと冬木立
火種いま沸点の島蝉しぐれ
春愁の棲みついている駅もある
ものの芽のわたくしという意思表示
十薬の闇の部分を食べつくす
鬼灯をならして結論先のばし
匙加減はかりかねてる秋思かな
白菜をざっくり切ってさしすせそ
冬銀河ふみだす勇気ほしいだけ
見つめられくすぐったがる冬菫
ときめきがそこらじゅうに桜騒
奥の手を蛍袋より取り出せり
いちにちを何事もなく草の花
寒卵よせばいいのに老婆心
みぞおちのあたりにいつしか春愁
春疾風ビニールハウスに尾をたらす
身を縛るもの脱ぎすぎて野に遊ぶ
ふうせんの予感の先にぽるとがる
人の世の摩擦さまざま草いきれ
生き方を自ら決めた蛍の夜
満月や地球に数多あるふしぎ
身支度を一途にととのえ山笑う
身の程は知ってるつもり蝸牛
おしゃべりはすべってころんで百日紅
天高し新郎新婦のこころ意気
軽口のつもりが皮肉唐辛子
淋しさの鱗粉こぼす冬銀河
ミニトマト引きたて役をふと忘れ
献血も趣味のうちですほうれん草
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