2013年2月1日金曜日

二十四節気論争(1)――日本気象協会と俳人の論争――/筑紫磐井編

(本資料はすでに1月に冊子として作成し関係方面に配付しているが、印刷部数が僅少であることから、さらに有効な活用が図られる事を期待して10回にわたって「blog俳句空間」に分載して掲載することとした。10回目(以下の目次の「5.まとめ」を掲載予定)が、ちょうど日本気象協会が公募している「季節のことば」を公表し、24節気の新しい、分かり易い解説を作成すると豪語している時期に当たる。

本冊子をまとめるに当り、シンポジウムの開催については本井英氏、片山由美子氏、櫂未知子氏にご協力を頂いた。また、中でも中心をなす「24節気アンケート」については、多くの方々にご回答頂き、またその取りまとめに本井英氏、北川美美氏にご足労をおかけした。ここに感謝申し上げるものである。

なお論争参加を希望し、本連載をまとめてすぐご覧になりたい方は、筑紫にまでご連絡いただければ全編を一括してお送りする。)

目次
1.24節気とは何か
2.「24節気アンケート」回答まとめ
3.「24節気アンケート」の〈意見〉の分析
4.参考資料
(1)24節気論争の経緯
(2)24節気と日本の気象に関する論文
(3)気象庁が天気予報等で用いる予報用語
(4)天文台と24節気
5.まとめ
(1)24節気の見直しの不必要性
(2)気象庁と気象協会の違い
(3)著作権の問題

なぜ「24節気論争」が起きたのか


平成23年から24年にかけて、日本気象協会(以下「気象協会」と略称する)が「24節気は古代中国で成立したものであるため、日本の季節感と合致しない」、「現代の日本にはなじみの薄い節気の呼称がある」という理由で、24節気見直しを提案した。これを受けて、気象関係者だけではなく、俳人などの文学関係者やジャーナリズムで広範な議論が行われた。気象協会が提案した内容や、その運動の進め方については4.で詳しく記録として残したが、その他にも俳人たちにより季節に関するシンポジウムや24節気アンケートが行われ、今後の季語をめぐるさまざまな議論が資料として残された。まだ気象協会の運動は収束しているわけではないが、今後の展開を見届けるためにも1連の資料を整理してみることにした。多くの俳人により関心が惹起されることを期待している。

1.24節気とは何か

旧暦の季節感として、中国の暦(暦法)を知っておく必要がある。1年(365.24日)の中で最も日の短い日と長い日を選ぶと冬至(太陽暦(以下同)12月22日)と夏至(6月22日)になる。さらに冬至と夏至の中間の日、つまり昼夜の長さが同じとなる日を「分」と名付け、春分(3月21日)と秋分(9月23日)とした。日の長さから選ぶ春夏秋冬を代表する基準日がこれできまる(これは世界の様々な太陽暦で共通の基準日だ)。【注1】

次にこの、冬至・春分・夏至・秋分の間のちょうど中間の日を立春(2月4日)・立夏(5月6日)・立秋(8月8日)・立冬(11月8日)と名付けた。春夏秋冬、それぞれの季節に入ったばかりの、季節が「立った」(兆し始めた)気配のある時期である(これは中国独自の基準日である)。

一方で、月が満ちてから欠け、また元に戻るまでの月齢(平均約29.5日)は暦が普及していない原始的な社会では大事な目安であった。世界中の多くの国では日は「月」の満ち欠けではかられた。文字通り1ヶ月で、これを陰暦とよぶ。1年はだいたい12ヶ月となるが、この「だいたい」はかなり大きな誤差があり、年により1ヶ月半近くずれることもある。

1年12ヶ月を、太陽暦の冬至・立春・春分・立夏・夏至・立秋・秋分・立冬(2至2分4立と呼ぶ)の8つの基準に分けるのは中途半端なので、8つの基準をさらに細分し、3倍の24の基準日にすることにした。これで1月に2つの基準日が入ることになる。8つ以外の基準日は、中国の当時の気象の指標を入れた、雨水(雪・氷が解けて雨・水となる)とか、啓蟄(虫が動き始める)とか、清明(空気が清く明るい)とか、穀雨(穀物を雨が潤す)、処暑(暑さが処(や)む)、白露(白露が降りる)、霜降(霜が降りる)とかである。これが「24節気」と言われるもので次に示すとおりである(()内は該当する太陽暦の日付)。【注2】

  • 立春(2月4日)・雨水(2月19日)
  • 啓蟄(3月6日)・春分(3月21日)
  • 清明(4月5日)・穀雨(4月20日)
  • 立夏(5月6日)・小満(5月21日)
  • 芒種(6月6日)・夏至(6月22日)
  • 小暑(7月7日)・大暑(7月23日)
  • 立秋(8月8日)・処暑(8月23日)
  • 白露(9月8日)・秋分(9月23日)
  • 寒露(10月9日)・霜降(10月24日)
  • 立冬(11月8日)・小雪(11月23日)
  • 大雪(12月7日)・冬至(12月22日)
  • 小寒(1月6日)・大寒(1月20日)【注3】

注意したいのは、立春とか立秋を旧暦の中で見つけるものだから、ついつい陰暦(月の巡行を基準とした暦)と考えてしまうが、れっきとした太陽暦なのである。陰暦は太陽の運行と無関係だから、太陽の動きとどんどん齟齬が生じる。しかし農業においては太陽の運行が大事だから、陰暦とは違う太陽暦の基準日を入れないと農作もままならないのである。旧暦は、実は陰暦ではなくて、太陰太陽暦という折衷された暦である。24節気(太陽暦)を使って適時修正を行い、時々閏月を挿入することによって大幅なずれが生じないようにする暦なのである。確かに旧暦は複雑である。しかし、24節気はシンプルなのである。



【注1】
ここにあげた暦法を平気法という。暦法は時代を下ると精緻になり、現在通用している旧暦(天保暦に基づくもの)は、天文学的な春(秋)分 ―― 視太陽が天の赤道をよぎる瞬間、つまり視黄経が0度(180度)になる春(秋)分点を通る瞬間 ―― を含む日(春(秋)分日)を基準に暦が定められている。これを定気法という。また、日の出も日の入も「太陽の上辺が地平線と1致する瞬間」として定義されるため、(太陽面を地平が通過する時間が追加されるため)厳密には春(秋)分日は昼夜の長さが同じとはならない。

【注2】
この24節気表の上段を節気、下段を中気という。重要なのは下段の中気で、旧暦の月は必ず中気を含むように編纂した(平気法)。旧暦正月(年の初めの月は1月といわない)には必ず「雨水」があり、旧暦7月には必ず「処暑」があり、従って中気のない月は「閏月」となる。これにより、月の満ち欠けによる陰暦を用いることによる大幅な月のずれを防ぐことが出来るのである。

【注3】
24節気の日付は年により1日程度ずれることがある。例えば、平成24年の冬至は12月21日。

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