2026年3月27日金曜日

【鑑賞】豊里友行の俳句集の花めぐり47 中村安伸『虎の夜食』(2016年12月刊、邑書林)を再読する。豊里友行

 中村安伸さんとは、2009年に大変な話題となった新人発掘のアンソロジー『新撰21』(邑書林)のひとりで私も御一緒させていただいた。

 帯文を先ず御紹介しますね。


モダンの風、

華麗のち不穏、

時々笑い、

沿岸部は一時

艶っぽいでしょう。

〈京寒し金閣薪にくべてなほ〉

〈物容るゝ壜も物言ふ壜も夏〉

――― この人の背中を見ながら

僕は俳句を作ってました。(千野帽子)


 本句集は、詩と俳句の饗宴が艶やかだ。

 あとがきより抜粋する。


 「私にとっての俳句は、鷹狩の鷹のように、無意識の空間へ放つたびに、なにやら得体の知れない、しかし、確かに自分の一部であると感じさせられるなにものかを、摑んで戻ってきてくれるパートナー」とある。


 詩と俳句の全体でとても美味しいポエジーの夜食でした。

 たはけものの降臨を待つ機械都市

 戯け者(たわけもの)は、「ばかげたことをする」「ふざける」などを意味する「戯け」からきている。

 ある機械都市は、もう人間の労働など要らない未来都市X年だ。

 その機械的な都市でたんたんと与えられる快適・便利・迅速なぴかぴかきらきらるんるんな機械都市に君臨するのを待つ者がいるという。それは、もしかしたらあのアニメ『北斗の拳』のアニソンに流れてくる曲、トム・キャット「ラブソング」なんかみたいに愛なんて馬鹿げた膨大なエネルギーを費やす人類の代物じゃないか。わたくし、機械ロボット・トヨコップも愛を謳いたい。ピーマンみたいにフロピーディスクのスペックはスカスカだけど人間の心が詩にして歌にしているあの地球の音符である愛という生きる喜びを謳う世界を待ちわびているのだ。


 崩々とふくろふ愛し合ふ樹海

 たとえ世界の秩序が崩れ始めていようとも梟(ふくろう)の愛し合う樹海が月や星屑の散りばめられた新たな秩序を生み出し育んでいる。


 聖夜わが領土は半円のケーキ

 聖夜にジングルベルがこの街を占領する頃に我が領土は、半円のクリスマスケーキなのでしょうね。ステキなクリスマスを。この虚構文学的な大量生産される前衛的な自由奔放なポエジーの怪物は、愛というひとりでは解けない人類の方程式を導きだしたのでしょう。この私的なポエジーをもっと探求していくとさらなる新境地があるのかもしれませんね。


 これはたぶん光をつくる春の遊び

 ひとつしか席のない向日葵の店

 東京を包む大きな雪催

 重力を脱ぐとき叫ぶ巨象かな

 任天堂の歌留多で倒す恋敵

 私たちは、光りをつくることのできる地球(星)に生きていてそれを春の遊びという。

 ひとつしかない席ですが、村や町、この島の向日葵の店にてユンタクハンタク(お喋り)をしながら向日葵の種は、シーブン(オマケ)で持っていきなさい。そうすると向日葵の店の愛を込めて。

 東京を包む大きな雪催。ふっと読書にふけていると雪景色にしてしまいそうな言葉の芯には、ポエジーが燈る。

 巨象の叫びを重力を脱ぐという比喩に込めたところが秀句。

 任天堂のテレビゲームの歌留多取りで倒すよ。恋敵。君の前では、強い僕でいたいよ。


 大量生産されていくポエジーの泉を止めることなく汲み続けて俳句の器に載せ続けてほしい。

 精神のポエジーの翼を自由自在に詩の世界と往還しながら大量の俳句の創造が展開される。

 この俳句集では、俳句の器にページの句数の緩急をつけながらも俳句1句に込めた熱量が時々、すごい世界観で迫りくる。


 共鳴句を頂きます。素敵な俳句をありがとう。ありがとう。ありがとう。


百色の絵具を混ぜて春の泥

夏草を科学忍者は軽く踏み

ある街をいつも想へり鉄線花

葉桜や詩歌の国に終電車

俳句想へば卵生まれる野分かな

夏来る乳房は光それとも色

星を踏む所作くりかへす立稽古

五月闇とは畳まれし帆のやうに

対抗馬つぎつぎ跳んで闇鍋へ

迷惑な翼を描かれ寒卵

まづ蝶を散らせて淡い艦隊よ

綿虫やここへおいでと言はれたやう

行春や機械孔雀の眼に運河

猫といふ受話器を膝に山眠る

夏雲に猫を産み出す力あり

コスモスは咲いてゐないと兵士のやう

鳥帰る東京液化そして気化

若草や壺割るやうに名を告げし

妹(いも)まるく眠り珈琲豆に溝

日盛の愛をパズルを組み立てる

約束を初期化してゆく初夏の指

肉体の古都肉体の遠花火

泣き叫ぶをみなのほかは冬晴れ

よきパズル解くかに虎の夜食かな

美しい僕が咥へてゐる死鼠

天に尻向けて焦土のぬひぐるみ

寒卵地球ふたつに割れる歌

空は蜥蜴の色に原爆を落とす日

歩き出す椅子歩き出さない冬の猫

漏電や蓮の上なるユーラシア

でうす様 自転してゐる花の庭