疎遠
すずめいろどき夕菅が透けてくる
ひまはりへ女が顎を上げにけり
麦茶冷ゆ消防設備点検日
檀特の花や退会告げらるる
疎遠なる珊瑚樹の実も色づくか
・・・
葉盤(ひらで)のこと。
家に在れば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る
万葉集第二巻中の有馬皇子のよく知られた歌。旅とはいうが謀反の疑いをかけられて連れて行かれている場面。後に処刑される、悲劇の皇子と伝わる人物である。
私が解らなかったのは、当時の政治や天皇の座をめぐることではなくて、本当に単純なことなのだが
最後の「椎の葉に盛る」この部分である。「飯」がどのような物かはさておき、柏の様な広い葉ではなく、「椎の葉」とはっきり書かれていることなのである。この時代にも椎は椎であっただろうから、食べ物を載せるにはあまりに小さいのではないだろうかということ。人が食べる物ではなく、神へ供えるものだから、それでいいのだという人もあるようだが、罪人として引かれている状態で、それでも本人にしろ従者にしろ神へ供えるということをするだろうか。出来るのだろうか。
過去に問いかけてみたこともあったが、答は得られなかった。
最近「葉盤」という言葉を知った。この字で「ひらで」と読むそうだ。広辞苑には神饌の祭祀具と載っている。数枚の柏の葉を細い竹釘で刺し止め、盤のようにした容器。後にその形をした土器を言った、とある。これなら納得できる。椎の葉は小振りではあるが、何枚かを丸く置き、小枝や笹の茎などで綴じ合わせれば仮の器の用ぐらいは足せたであろう。そう思えば頷ける。ずっと一枚の葉だと思っていた私は疑問のままに思い出しては忘れ……の繰り返しだったのだ。
草木の葉は何かと便利に使われてきた。柏餅や笹団子、柿の葉鮨に朴葉味噌等々、今も郷土食として残る。山帰来の葉も月桃の葉も食べ物を包むのに使われている。かつて旅先で早苗饗の場に行き合わせて蕗の葉に包まれた御飯を頂いたこともあった。
草木の葉といえども安心できる物ばかりではない。中には有毒な物もある。今残っているのは、防腐作用があったり、香りが良い物だったり、長い間に淘汰されてきた物だろう。
有馬皇子の椎の葉、もしも葉盤だったら、長年の私の疑問も落ち着くのだが……。
因みに窪みをつけた器は「葉椀(くぼて)」というのだとか。私はどちらも知らなかった。
(2022・8)
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