春の月思ひ余りし如く出し 上田五千石
第三句集『琥珀』所収。昭和六十一年作。
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今回のテーマの「晩」は、夕暮れ、夕方、夜の意。晩は夜とほぼ同意と思い込んでいたので、新鮮に感じもした。
春の月の出の正確な時刻はよく知らないが、月が出るという現象から「夜」ではなく「晩」を感じ、この句を選んだ。
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掲出句。句意は明瞭と言っていいだろう。春の月が思い余るように出た、と感じとった。
「思い余る」は、さんざん思い悩んで、どうにも考えが決まらなくなる、思案に余る状況。月が思い余った挙句に出た、の「挙句」が省略されているのかもしれない。
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「朧」という季題もあり、「春の月」は空気中の水分が多く、どこか潤んでいるような感じがする、というのが季語としての一般的な解釈だ。
この句では、滲むような月の出を「思ひ余りし如く」と、人間の感情のような形で表現している。「春の月」という季語の本意を、五千石なりに表現した作品、と言えるのではないだろうか。
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ちなみに「月」の句には、以前の「月」のテーマで取り上げた〈月の村川のごとくに道ながれ 五千石〉があり、これも掲出句と同じ昭和六十一年の作。「月の村」の句は、秋ならではのクリアな空気が、硬質に詠われている。
一方掲出句は、云わば感情過多の写生句のようなつくりの作といえるだろうか。
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