2013年8月23日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む11~年中行事その⑥~】/筑紫磐井

【赤い羽根共同募金―11月1日より1カ月】

※昭和22年に第1回共同募金運動が41県で実施(11月25日~12月25日。翌年第2回から10月1日から開始)された。募金をすると赤く着色した羽根がもらえる(寄付済みの印)ことからの命名で20世紀初頭からアメリカで行われていたコミューニティチェスト運動を導入したもの。街頭募金や町内会を通じて募金される。これもアメリカの文化運動の一つがGHQ関係者によって導入されたものであろう(サンマータイム同様GHQはアメリカで行われている行事が無条件で正しいものと思っていたし、昭和20年代の敗戦国の日本人もそれらが無条件に正しいものと思っていたのだった)。

落穂拾ひ愛の募金の補ひに 石楠 25・2 大沢芳禾 
台風の募金病者ら鳴る金を 浜 29・1 渡辺白桃子

※赤い羽根共同募金と言いながらそのまま「募金」が詠まれている句はそう多いわけではない。むしろ、①「赤い羽根を挿す」こととその②「街頭」での募金という従来日本にはなかった風習に注目する句の方が圧倒的に多い。

赤い羽根コートに挿しぬ秋の雨 春燈 26・1 藤巻志津 
赤い羽根挿せる子のパンの餡が見ゆ 俳句 27・12 下村槐太 
赤い羽けふ着おろせし袷かな  春燈 28・2 長谷川湖代 
胸に赤い羽根秋刀魚のおくび空へ抜く 俳句研究 28・4 山口六兵 
愛の羽根透視を了へて失へる 馬酔木年刊句集 児玉典子 
愛の羽根胸に四隣も共に貧し 馬酔木年刊句集 副島花愁 
吾子の胸に誰ぞさしくれし愛の羽根 馬酔木年刊句集 田尻稚稔 
愛の羽根朝の銀座の動きそめ 馬酔木年刊句集 秋元草日居 
愛の羽根胸に受けゐて秋暑し 慶大俳句作品集 槫沼 けい一 
つつましく立つ故愛の羽根もとむ 馬酔木年刊句集 大網信行

※胸に羽根が挿されている状態、むしろ一種の秋のファッション、衣装のような扱いをされているところが目立つ。最後の句のように、募金の印として受け取った羽根がいつの間にか購うものとなってしまっているのだ。快適なファッションはやがて、「愛の羽根」と言う言葉で題詠のように一斉に使われ始めるのも特徴だ。耳ざわりのよい言葉は季語として残りやすいのである。

ビルを背に募金の生徒らにも雪 石楠 25・3 西田紅外 
春塵はげし募金の子等のかすれ声 氷原帯 26・7 山木比呂志 
群衆は背高し赤羽根募金の子ら 天狼 27・1 堀内小花 
共同募金青年大股に素通りす 道標 27・1 三好奈津緒 
五月の街ゆきて募金に取りまかる 石楠 28・7 大場思草花 
※それにもまして、児童たちが学校の活動の一環として、学外に出て募金活動をする独特の風物としてとらえられている。おまけにそれらをシニカルに眺めている句が詠まれるようになっている。このように季語は発展することにより、普遍的な季語になってゆくのであろう。

※ちなみに例句を見てみると現在の歳時記の季節とは違う時期が詠まれているようだ。雪が降っていたり、5月であったり、春塵が舞ったり、秋暑であったり。季節がダイナミックに混乱しているこのような季語こそ、俳人の季節感覚が生き生きしている証拠だ。激動の時代に生まれた俳人の至福といわねばならない。


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