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(デザイン/レイアウト:小津夜景)
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フラスコと音楽 小津夜景
……筆者が身体を《物質を受容し、保存し、化合し、撹拌し、蒸留し、発散するフラスコ》に見立てることで発見した音楽体感法は次の四種類に大別されます。①体鳴式。これは身体そのものを揺らしたり、何かと接触させたりすることで音を創り出す方法です。②気鳴式。これは身体の空洞部からなんらかの音を排出する方法で、電磁力を加へることで増幅の容易な点が特徴と言へるでせう。③吸鳴式。これは大気圧を利用した真空フラスコ法の応用です。この場合あなたはなるべくふぬけた犬の状態で外へ出なくてはなりません。さうすると外界の音が渦を巻いてその体内へ流れ込むので、あなたは嫌が応にもそのハーモニーにまみれる状態となる訳です。④無鳴式。今度は外界の音を全て忘れ、この世界を無響室だと想像してみて下さい。聞こえるのは呼吸や臓器のうごき、耳鳴りや幻聴といつたフラスコ内の音だけ。さあ。一体その中に何が観察されますか? さうです、無音の世界を充たす有音の自己と、外部からの通信が途絶えたことの孤絶、となりますね。
……しかしながら音楽は本来孤絶と相反するもの。従つて四つめの様式を、音楽と呼ぶことは実は出来ません。常申し上げるやうに、心地よい調べには、五感を飛び交ふ信号がほどよく混乱ないし輻輳していること、送信元と宛先とが共に不明瞭で傍受がし放題であること、そして宇宙からの物理的影響を受けやすく復元困難な繊細さを有することがなにより大切なのですから。
……素晴らしい音楽は、一人の時ですら《未知の多》から成ります。音楽の本質とはフラスコのオルガニズムに生まれる残響、その愉しい《混信》なのです。
飽きもせで木にテルミンを翳す春
東風ぞはや騒めく渋好みのねこが
たまじやくし捧ぐ深手のオルガンへ
草餅を捻ぢ曲げてゐるスヴニール
ひとつぶの蝌蚪のブラックホールかな
恋すてふいそぎんちやくと読む斥力
戯れ蝶かこきざむまにま剥離すは
龍天にのぼる月下はきのこなれ
さへづりのひつそりかんと還り来ず
モノローグ余さずかなの甘茶かな
【略歴】
- 小津夜景(おづ・やけい)
1973生れ。無所属。
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