豊里友行は沖縄在住の俳人であり写真家である。
豊里は写真で今を表現するからだろう。俳句では過去や未来を詠むことを意識している作家である。戦争を伝えるには今を写すだけでは困難であり、過去の出来事を題材に詠んだり未来もしくは非現実的な状況を詠んだりすることが必要だと感じているのだろう。
万歳の手しだいに鶏頭の海
万歳は単純な身振りである。声に合わせて両手を上下するだけだ。同じ瞬間に同じ身振りを皆が一斉にすることで、そこに自分自身が参加している実感を得ることができる、謂わば共同体の一体感をもたらすものである。万歳は単純な身振りであるがゆえ、この一体感を強烈なものにする。
掲句を一読すると出征を見送る人々の万歳の手が無数の鶏頭に変わった場面へ切り替わるようなイメージがわく。
万歳で送り出したその場所が建物など残っていない鶏頭だけの海になったのである。鶏頭の炎のような鮮やかな花色が胸に迫る。
豊里が鶏頭の写真を提示したら、この句をきっと思い出すだろう。 今後も写真と俳句の両輪でメッセージを打ち出し続けていただきたい。
(俳人)