『池田澄子句集』(1995年刊、現代俳句文庫―29・ふらんす堂)を再読する。
帯文を先ずは引いておく。
産声の途方に暮れていたるなり
〇解説より
池田さんの言葉は池田さんの実際の生活から生まれている。フィクションな句もあるだろうが、それもまた生活の濃厚な肉感によって支えられている。(略)正直、デリケートに、またユーモアを秘めて時代と向き合っていると思う。(谷川俊太郎)
気負いなく丁寧に今を俳句に詠う。
その率直ぶりに私たちは、共感を覚えた。
私は、まだ御会いしたことがないです。ですが、facebook友だちしていただいている俳人の池田澄子さん。
「池田澄子先生。」
「先生でなくサン付けで。」
とても口語俳句の人気作家とは思えない気さくさに俳句らしさよりも池田澄子らしさ全快な感じが魅力的だ。
とくにfacebookにアップされる写真と言葉に丁寧に生きる姿勢があふれていて魅了される。
珊瑚礁のひと欠片を丁寧に写した池田さんの写真がアップされていて魅了された。
沖縄の人の多くは、沖縄戦で骨さえ帰れない戦没者が沢山いるのだが、池田澄子さん自身も父を戦争で亡くしていたと「俳句四季」の連載を読んで知った。
この俳人の感性は、写真にも瑞々しく投影されていたのだ。
私もその池田澄子俳句への魂の共振という同時代性から自分自身の俳句らしさに影響を与えられ、自分なりに創意工夫をしながら私自身の俳句へと乗り越えて行きたい。
何故に池田澄子俳句は、みんなを魅了するのだろうか。
池田澄子俳句に問うてみた。
ピーマン切って中を明るくしてあげた
まるでエドワード・ウェストンのもっとも有名な写真 「Pepper No.30」のピーマンを連想してしまう。
エドワード・ウェストンの自然物の造形美を追求した写真シリーズの再現性は、「Pepper No.30」のピーマンがピーマンの存在を越えていくほど写真にリアリティーを獲得させている。
池田澄子俳句のピーマンは、そのピーマンの存在感にピーマンの空洞にして光を与える所作を俳句に盛り付けている。
池田澄子俳句の魅力は、今を切り取る観察眼ではないか。
若い世代の俳人たちにも絶大な影響を与えてきた。
その観察眼に裏打ちされた五感をフル稼働して丁寧に池田澄子俳句の人生が紡ぎ出されている。
定位置に夫と茶筒と守宮かな
これ以上待つと昼顔になってしまう
空腹を彼に知らるな芹の花
冬の虹あなたを好きなひとが好き
あなたを見つめる池田澄子俳句の恋の果実も絶品だ。
定位置に夫と茶筒と守宮が居ることの瞬間性も俳句の中に永遠に生き続けている。
待たされる女は池田澄子さんなのだろうか。「昼顔になってしまう」の心情の吐露も恋の行方の連作としても読者を興味深々にさせてしまう。
空腹の腹の蟲が泣き出すのを彼に知られまいとする女心の芹の花も可憐に風に揺れている。
凛と立つ冬の虹は、あなた。「あなたの好きなひとが好き」とストレートに女性の本音を云えるのも池田澄子俳句の恋の果実の斬新さで強烈なスパイスになっている。
青い薔薇あげましょ絶望はご自由に
じゃんけんで負けて蛍に生まれたの
十五夜の耳かきがあァ見つからぬ
行く先はどこだってよくさくらさくら
大丈夫と言ってしまいし霙かな
池田澄子俳句を会話形式にしてみる。
「青い薔薇をあげましょう」「絶望はご自由に」。
なんて映画のワンシーンが永遠性を持って俳句化されてしまう。
口語俳句の魅力が存分に味わえるのも池田澄子俳句の醍醐味。
ジャンケンで負けたから「螢に生まれたの」なんて言ってしまう。
そこには、生き残った者の人生の折々で一瞬性のジャンケンの勝敗に囚われていく。
そんなに軽く言っちゃっていいのかな。
たぶん池田澄子俳句は、何度も繰り返し人生に課せられた戦争の時代を自問しながら生きてきたのだろう。
そのことが俳句にも影を潜めているようだ。
十五夜の耳かきが見つからないと「あァ」と歓喜の溜息を零す。
「行く先は何処だってよく」なんて言わせてしまう、あなたは、桜~さくら~に紛れぬように~見つめていたのかもよ。
「大丈夫っ?」って霙(みぞれ)に問いかけてしまいたくなる池田澄子さんのモノに心を通わせる俳句の柔らかさが池田澄子俳句にはある。
率直に軽快に豪快に人生の生活空間を俳句に丁寧に盛り込む。
池田澄子調ともいうべき瑞々しい感性は、魅力的である。
俳句作法は、自分らしさの匙加減で日常の口語俳句を百にも千にも多様な配合の池田澄子らしさで俳句の読み手を魅了し続けている。
俳句観賞をしたいのだが、もうそれ事態が野暮な気さえする。
さぁ~!らっしゃい!らっしゃい!池田澄子の俳句の果実は、いかが。この感じ。楽しんでね。
大切な人生をあなたも自分らしい俳句で書き綴ってみませんか。
最後に共鳴句をいただきます。
卯の花腐しハンガーに兄を掛けておく
主婦の夏指が氷にくっついて
脱ぎたてのストッキングは浮こうとする
紫陽花やいつもここらで息きれる
お祭りの赤子まるごと手渡さる
腐(いた)みつつ桃のかたりをしていたり
煮凝に御座(おわ)さぬ母を封じたり
着ると暑く脱ぐと寒くてつくしんぼ
芒原握り拳の内あたたか
かまきりの孵り孵りて居なくなりぬ
いつしか人に生まれていたわ アナタも?
砂糖醤油しみて鰈はさびしかろ
揺籠ごと長女を持ってきて見せる
この国で生まれて産んで苔もみじ
うつぶせに覚めている我が翅なき羽化
太陽は古くて立派鳥の恋