2022年2月25日金曜日

【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(19)  ふけとしこ

 左右

右を見て左を見れば雪こんこん

左手が右手を探す冬夕焼

寒晴の左の耳に聞かすこと

枯園や二羽の鳶の輪が離れ

カリフラワーの分け方恋の終り方

 ・・・

 大阪市より表彰されるという椿事。

 昨年の初冬1本の電話があった。相手は大阪市環境局の某氏。あなたを表彰したいのですが受けてくれますか? といった内容である。聞けば私が道路の清掃をしているというそれだけの理由からである。引越しも決まっていたし、近所の人たちに知られるのも気恥ずかしい。一旦は断ったのだが、16年間続けるというのはやはり大変な事ですから……と。そこで考えた。この街に住んでいたという記念になるかな、と。

 表彰式は1月末だった。新型コロナウイルスの感染状況によっては式典が中止になるかも知れませんが、ということでもあったが、無事に行われたのであった。

 西宮市の郊外から、大阪のど真ん中の家を引き継ぐべく移り住んだのが16年前のことだった。街の喧騒は覚悟の上だったが、それよりも道路の汚さ、ゴミの多さが気になった。昼間は人通りが多いので、早朝なら人に会うことも少ないだろうと、毎朝6時に掃除に出ることに決めた。範囲は家の前を中心に四つ角から四つ角まで。余程の事がない限り、箒と塵取りとゴミ挟みとゴミ袋の毎朝であった。あまりにも汚いので新聞紙にくるんでから袋に入れた。

 繁華街のこと故、終日人通りがあり、酔っ払いも多い。真夜中から明け方にかけても大声、スケートボード、小競り合い、吐き散らし等々。現金、鍵、キャッシュカード、免許証、保険証などなど、これを落としたら困るだろうに……という物もよく拾った。何回交番へ持ち込んだことか。車に轢かれてバラバラになったスマホ、これだって持ち主はさぞかし探したことだろう。

 面白いことも色々あった。大きな鼠や蛇に出くわしたり、車にはねられた鼬にも遇ったが、この鼬は可愛そうに死んでしまった。死骸は私が片付けざるを得なかった。狸が悠々と歩いて来たことがあって、これには本当にびっくりした。「君、狸だよね?」とまじまじと顔を見たら、相手もじーっと見返してきた。そしてまた悠々と御堂筋の方へ歩いていった。それっきり出会うこともなかったが、いったいどこから来てどこへ行ったのだろう。
 そんなことなどを思い出す日となったのだった。

 マンション暮しとなった今も道端のゴミが気になって仕方がない。

(2022・2)


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