2013年12月13日金曜日

【第二回攝津幸彦記念賞・佳作】 脳裏に抽斗を落とすこと、など 夏木 久







攝津幸彦記念賞佳作受賞作五十句

脳裏に抽斗を落とすこと、など       夏木 久

爪切ればときどきわらふ花茨
パラシュート脳裏に開き落椿
ひき潮やJohnnyの脳はなみづき
ミシン屋の路地裏を縫ひ浮かれ猫
夕桜キャッチボールをしてをりぬ
万国旗のやうな洗濯もの虚子忌
レントゲン室より春が項垂れて
溺れをり春の窓辺の浅瀬にて
春宵を抱いて倒るる置手紙
抽斗を落せば思ひ出す朧
電灯の憎しみ洗ひつつ暮春
ゆく春と墺太利へ濡れにゆく
帽子屋は風ためてをり初節句
屋上に薔薇のわづらふ金縛り
抜刀し路地まがりゆく夕薄暑
あの町の記憶に濡れし鯉のぼり
あぢさゐにあじのむらありついこぼす
かたつむりかたむくかたへかたたがへ
オウンゴールマリーdeゴールドオルゴール
まつしろのモーツァルトの昼寝かな
転んでも金魚掬ひをしてをりぬ
夏野かな椅子も机も放牧し
青嵐キリン脚立のやう倒れ
灯台の夜を夏蝶ノックせり
夜の秋おくらと螺子の山の上
恐竜を壊して夏の夜のマラソン
我武者羅に空蝉あいてゐて鷺洲
消火器と打ち明けられて曼珠沙華
ももすももすこしいたんでゐてすてき
駄目を出す泡立草とつゆ知らず
月光を塗つて泣く子を消毒す
燕帰る出口に近い席を取り
仏壇の海に真面目な鰯雲
縄梯子待てど暮せど鵙の贄
マンホール銀河の匂ふ人の出で
ぶつかつてひびきあはないのでかかし
こはるびのこはむちやくちやをいひこはる
湯豆腐や上着を闇に掛けしまま
ぶら下るもの透きとほる冬木立
とつぷりと重たいおでん屋の木曽路
護国寺の時雨れて思ふチチカカ湖
闇鍋のひかり煮詰むる手に触るる
辺までチェロを引き摺る冬銀河
吹雪きをり9番席の椅子の脚
二三頭棚に戻せり冬の蝶
消防士Quizに怒り冬帽子
探偵がやをら狐火ともす頃
にほんごのゆげもおこげもひとまろき
遠火事の夜のふもとの観覧車
抽斗に津波の止まぬ春隣




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