巣箱から
夢二忌の青き葡萄に絵具溶き
巣箱から出てくる蛇と目の合ひぬ
蛇の衣こんな処で脱がずとも
炎昼や詐欺に合つたの合はないの
テントウムシダマシ青光りして旱
・・・
「変わりものの記」というコラムというかエッセイを『俳壇』に連載している。目下9月号33回目の校正を終えたところ。
毎回何が大変って、題材選び、このことである。
とにかく「変わりもの」なのであるから、多少なりとも珍しくなくてはならないだろうし。
今回はイタセンパラについて書いた。
私は大阪市旭区へ転居して三年余になる。転居すればまず区役所へ行くことになるが、そこで目に触れるのが魚をデザインしたマスコットキャラクターである。愛称パラッチとある。 パパラッチ? いやいや、よく見たらその魚というのがイタセンパラという名前で、そこからパラッチと名付けられたということのようだ。
「変わりもの」についての執筆依頼があったときから、名前の面白さもあってこの魚は候補にあげていたのだった。
書くのは我流でいいとしても、問題は写真である。カメラマンを派遣して貰えた時代もあったが、出版業界も何かと厳しくなっているから、自分で用意しなければならない。草木ならどうにかできても、泳いでいる魚を撮るというのは、私にはまず無理。
そこで区役所で写真を貸して貰えないものだろうかと出向いてみた。
受付で尋ねると「まち魅力課」へ行って下さいとのこと。その「まち魅力課」へ行けば、ここでは写真の提供はできませんと言われる。寝屋川市にある「地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所 生物多様性センター」まで行って借りて下さいと。何とまあ…簡単な話ではなかった。
電話で予約し、メールで遣り取りした後に出かけたら、使用目的等をきちんと書き込んで提出して欲しいとのこと。私の手には負えず、『俳壇』編集長まで巻き込んで「画像等利用申請書」なるものを作成して提出。汗だくで帰宅すると、申し込み手続き完了とのメールがあり、更に承諾書なるものが発行され、拙文に間違いがあっては困るから一度確認したいと言われる。書き上げた文章を送信したら、2か所に回され(たらしい)特に問題はないようですと。やっと画像等利用申請書を受理しました、となってデータを送って貰えた。
3週間かかった。まさにやれやれ~だった。取材を兼ねて一度訪ねれば済むことかと思っていたのだが甘かった。お役所を相手にするとこういうことになるのね……であった。
で、件のイタセンパラである。何語? はい、日本語。漢字では板鮮腹と書かれ、体が平たくて、婚姻色の赤紫がとても美しいからこの名が付いたとのこと。
区役所で渡されたチラシには「旭区の宝」と大書されている。何故旭区の魚なのか? 大阪では淀川水系の、特にワンドと呼ばれる水域に棲息している。幾つかあるワンドの内でも特に知られているのが城北(しろきた)ワンドであり、その城北地域が旭区になるということからなのだった。
一時絶滅を言われたが前述の生物多様性センターに保護されていることが分かり、そこから稚魚を育てて城北ワンドに放流。魚類としては初めて国の天然記念物に指定された。然して淀川のシンボルフィッシュと言われるようにもなっている。
他に富山平野、濃尾平野の一部に棲息が認められているそうだが、何れも絶滅危惧種になっている。
イタセンパラの生態(これがなかなか面白い)についても、淀川のワンドについても明治時代までさかのぼって調べてみたが、また機会を改めて書いてみたい。
(2024・7)