2025年4月25日金曜日

【新連載】新現代評論研究 音楽的俳句論 解説編(第1回) 川崎果連

●提起
 ①俳句は3小節の「リズム詩」である。
 ②歴史や人種を超えて人間が体得した表現方法が「呼吸」である。
 ③リズムは呼吸から生まれる。


●結論
 俳句はリズム上の休符(切れ)と表現上の「言葉のひびき」の融合作品である。


※「切れ」の正体=休符
 直後が休符になる場合は、51音すべてが切字となり得る。
「ん」→「いざ行かん」「青蜜柑(秋)」など。


★パターン1 夏草や―
【解説】一般的に「や」は強い切れだと言われるが、それはあくまでも文字(切字)としての表現上の約束のようなことに過ぎない。音楽的には「ヤ行」の響きは非常に柔らかい →「や」は直後の休符へフェイドアウトしていく切れである。
※強く切るか弱くやさしく切るかは最後の音で決まる。
 →パターン7「句末の『や』」参照。
※この例句の中七は厳密には「6+1」である。例としては〈五月雨を集めて早し最上川〉などのほうがわかりやすいが、「や」の特徴を示すためと、ここで示すすべてのパターンが「基本パターン」であり、他はすべてここから派生する「バリエーション」であることを示すために、あえてこの句を用いた。


★パターン2 古池や―
【解説】休符がリズムをつくることは昔から知られていた―ということを証明する型。
歴史や人種を超えて人間が体得した表現方法が「呼吸」である。音楽で言う「ブレス」は単なる「息継ぎ」ではなく「呼吸を整えて次の音を出す」という意味である。


★パターン3 目には青葉―
【解説】最初の字余りの部分を「目には」で1拍(3連符)とし「青」は8分音符2つで1拍、「葉」は4分音符1つで1拍とする。3連符は本来2等分・4等分すべきところを3等分した音符。1拍の中を3拍子(ワルツ)にすると思えばよい。スピード感が出ると同時にリズムが安定する。
※このパターンの1小節目については、このかたちのほかに、①2拍目も3連符(「青葉」)とし、3拍目と4拍目を2分休符とする。②1小節目そのものを2/4拍子として8分音符の3連符2つ(目には青葉)とし、2小節目から」4/4拍子にもどす―という考え方もできる。
※このパターンの考察を進めていくと、上五・中七・下五のどの部分においても、リズムのなかに収まるかどうかが問題であり、収まらないケースは「字余り」というより「音余り」であるという結論が得られる。


★パターン4 夏草に―
【解説】一般的に「ナ行」は柔らかいが、「に」と「ね」、つまり「イ音」と「エ音」が入るとやや硬くなる。中八は「リズムが崩れる」と言われるが、音楽的には4拍目の4分音符を2つに分割しただけで小節の中にきちんと収まっている。言葉の選び方次第でこの句のようにたたみかけるダイナミズムを表現できる。


★パターン5 浮浪児昼寝す―
【解説】字面だけ見ると野放図に見えるが、周到に計算されている。普通この手のセンテンスはノン・ブレスで一気にたたみかけるが、テンポによっては小節線の境目で微妙なブレス(切れ)が入ることもある。


★パターン6 咳の子の―
【解説】なぜ句末に切字をおいたか。句末はどんな字を置こうがリズム的には無条件に切れている(休符がくる)。句の内容と関係がある。「し」でもよいのだが、「し」は硬くて突き放す感じ。「や行」は「い」「え」を除いて柔らかい。「風邪に苦しむ子への思い」が「や」を選ばせた。


★パターン7 花衣―
【解説】①パターン2で見た中七の「スイング感」を下五でわざと消している。「迷い」を見事に表現したと言える。②1小節目で「はなごろもぬぐや」と8分音符8個でカウントし、2小節目の始まりを2分休符にする(切れる)という考え方などもできそうだが、そうなると①が成り立たない。はたしてどうか。引き続き検討する。


★パターン8 夜桜や―
【解説】三段切れというのはほとんどが「字面」のこと。それを証明しているのがこの句。リズム的には切れない。休符がないから。ただ、「見えない切れ」というか「かすかなブレス」が2小節目の末尾で発生する可能性はある。いずれにしても「意味がつながっているから三段切れにはならない」という論は検証が必要。切れはあくまでも音楽的には休符である


★パターン9 ひつぱれる―
【解説】上五の切れは本来、あとに続く中七・下五をブレスなしで一気に続けるための自然発生的な空白。この句こそが三段切れと言える。わざわざ中七でいったん息継ぎ(ブレス)をして、下五を力強く叩きつける。下五で特別なパワーを表現するには適した方法。


●マブソン青眼氏の提唱する5・7・3俳句
【解説】仮に3小節目の3音が「4分音符3つ」ではなく「8分音符2つ+4分音符1つ」であったとしても、後半に2拍分の休符が発生することは自明の理である。


以上