2021年2月12日金曜日

【中村猛虎第一句集『紅の挽歌』を読みたい】9 中村猛虎句集選評  太田よを子(「朱愚」代表)

  コロナコロナのこんな時期に、おもしろい句集を頂きました。
 「おもしろい」と言ったのは、言葉遣いも表現の仕方も感覚も独特で、でも難解ではなく共感できて、すっすっと読んでいけたからです

 私の気に入った句を書き抜きます。
 「妻」を詠んだ一連は、一句一句読んで、私も一喜一憂しました。これ等が句集の冒頭にあったので、私は、この句集にぐっと惹きつけられました。

痙攣の指を零れる秋の砂
白息を見続けている告知かな
病室のベッドの高さに冬の水
寒紅を引きて整う死化粧
遺骨より白き骨壷冬の星
葬りし人の布団を今日も敷く

 自然を描写した旬にも惹かれました。

雪ひとひらひとひら分の水となる
 美しい描写です

産土の闇深くなる星祭
 伝統的な俳譜の世界。

春の水君の形に拡がりぬ
 いろいろなところに妻の面影が

子をくれてやろうか夏の星たちよ
 得意な気持を表現

刃物研ぐ音を吸い込む秋の雨
 神経がいたくなるほどの鋭さに惹かれる。

白魚は水の塊かも知れぬ

すすきの穂ほら魂が通った
 すすきのあの揺れ方は

蛍龍車の揺るる度に燃ゆ
 描写が効いている

納得の音の出るまで枯葉踏む

 「ぎょっ」とした句もありましたが、素敵な句だと思いました。
 初めにぎょつとした分だけ、私の心に深く刻まれました。

順々に草起きて蛇運び行く
 動きがあって爽やかな草原の情景

井戸掘れば現れる骨秋の暮
 妻恋の句

 次の繊細さも好きです

墨を擦る月冴える夜に墨を擦る

少年は夏の硝子でできている
 少年や少女を美しく表現していて好きです。

向日葵に見つめられていて童貞
俯きしままぶらんこの少年よ
少しずつ君が芙蓉になっていく
ラフランス少女は三度羽化をする


 優しい句があります

三月の流木のそばにいてやる

 戦争と平和を語った句では

この空の蒼さはどうだ原爆忌
ビリーホリディに針を落として敗戦日


 ありがとうございました。楽しんで読みました。
 今後もご活躍のほど期待しています

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