烏の爪
霜晴や鳩居堂より鳩が飛び
紙を繰る音のときをり日脚伸ぶ
枯蔓の被さるがまま梅早し
うすらひを烏の爪が破りけり
春が来て山羊の横目に笑はれて
・・・
人だますやうには見えず狸の目 仲寒蝉
冬興帖に見つけた句。そうだなあ、と頷いた。そして昨年の冬初めに出会った狸を思い出した。
毎朝、外回りの掃除をする。門を出ていつものように西側へ目を向けた途端にそいつと目が合った。「あれ? 君、狸だよね?」じっと見たら、相手もじっと私を見た。全身茶色で鼻と目のあたりが黒い、尻尾は太くて垂れている。御堂筋へ出る道を、それもちゃんと歩道を歩いて来た。野良猫にも偶に会うが、彼らはさっと隠れる。こいつは逃げも隠れもせずにじっと私を見返す。やっぱり狸、どう見てもタヌキ。こんな街中を悠々と歩いているとは……。どこから来たのだろうか。しゃがんで「夜遊びしてたん?」と話しかけると、また私の顔をじっとみて、それからおもむろに東へと歩いて行った。御堂筋へ出てどうするのだろう。
以前、我が家の前で鼬が車にはねられて死んだことがあったが、あの狸、無事に帰ったかしら。
たぬき汁夜風の騒ぎだしにけり 太田土男
誰にも捕まってはいないだろうなあ。
(2021・2)
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