2017年4月16日日曜日

【短詩時評39話】安福望さんと柳本々々で個展「詩と愛と光と風と暴力ときょうごめん行けないんだの世界」でギャラリートークとして話したこと/やぎもともともと

今、帰りの新幹線なのですが、きょう(4月15日土曜日)イラストレーターの安福望さんの個展でギャラリートークをしてきました。場所は大阪の北浜、NEW PURE+です。

うまく話せたかどうかわからないところがあり、だんだんわたしも話しながら、(わたしはつまらないことを話しているんじゃないか)と思い、「すいませんわたしはもしかしたらつまらないことを話してるかもしれません」と謝ったりもしたのですが、ただやすふくさんは興味深いことを話していたような気がするので、何点かその話の要点をまとめてみようと思います。

ひとつは、やすふくさんは、主に短歌をもとに絵を描いているのですが、展示になると少し変わった心境になると言います。なんというか、言葉に対する違和感がでるというのです。言葉をどう配置したらいいのかたいへん悩むそうです。ただすっきり納得したことがあって、それは神楽坂の展示のときに、壁そのものに直接言葉を書きつけられたときだそうです。

それって、でも、壁に文字を書きつけるのだから、もう文字というより、壁の染みというか、壁の絵、壁画みたいになるっていうことですよね、ことばが。このやすふくさんが納得できたという壁画という観点は、もしかしたらやすふくさんの絵を見直す観点としてもきょうみぶかいのかなとも思いました(ある意味、《野蛮》ですが、しかしやすふくのぞみの性質は《野蛮》というキーワードもあるのかもしれません。ゲリラやアナーキーでもいいですが)。

やすふくさんの絵は、緻密なリアリズムで構成されているというよりは、桜があり、宇宙があり、熊があり、舟があり、男の子がいるという象徴的な操作がしゅんかんてきにわかるように構図が構成されています。これは、ツイッターでスクロールしながら洞窟の奥で壁画でもみるように、火のなかで、ゆらめくなかで、ぱっとみたときでも把持できる象徴表現としての絵です。やすふくさんの絵はもしかしたら壁画的なんじゃないだろうか、あなたもしかして壁画画家(へきががか)なんじゃないですか、と思いました。「へきががか!?」

そうすると、なぜ動物とひとがあたかも対等に一枚の絵にいすわっているのかもわかるような気がするんじゃないかと。昔の、神話的な思考のなかで、考えることもできるんじゃないかと。これはトークのなかでの直感ででてきた話なので、あくまでひとつのアイデアですが、やすふくさんが壁に親和性を見いだしていたのはおもしろいなと思いました(ちなみにギャラリーのオーナーの方もたまたま中沢新一さんの話をされていたのもきょうみぶかかったです)。

もうひとつは、すこし関係していますが、やすふくさんの絵のひとと動物、おとこ、おんなは、支配/被支配の関係がないんじゃないかということです。これは、トークのなかで、やすふくさんの絵における男らしさ・女らしさってなんだろうという話がでたなかでのことですが、やすふくさんの絵にはそうした男らしさや女らしさがどこか解体されている感じがあるんじゃないだろうか、だとすれば、それは、支配する側と支配される側の関係が明確に描かれない、熊とひとが並んだり、おとことおんながせなかあわせになっていたり、そうした関係のあいまいさをそのままに描いているからじゃないかという話になりました。

ジェンダーが明確に打ち出されるのは、おそらく、支配/被支配の関係がもっとも強く打ち出されたときだからです。

やすふくのぞみの絵における《らしさ》の所在はどうなっているのか、という問い。女らしさ、男らしさ、ひとらしさ、動物らしさ。

まとめると、トークで話した少なくともふたつの話題は、安福望はほんとうに《紙》に描いているのか、もしかしたら《壁》に描いていたんじゃないかという言葉とイメージをめぐるメディアを含めた問い直しがひとつ。もうひとつは、やすふくさんの絵のなかにおける支配する者と支配される者の関係は解体されているんじゃないか、まったいらな世界なんじゃないかという《らしさ》をめぐる問いかけがふたつめです。

もうひとつ、最後につけたすと、やすふくさんは、「思っていることをしていない」というマルクスのような複雑なことばをさいごに発言していました。これにはわたしも驚いていったいこのひとはなにをいうのだろうと思いましたが、ただ《思っていることをしていない》ことで、複雑な内面のねじれをたたえながら、シンプルでぱっとつかまえられるやすふくリアリズムが絵として展開されているのはとてもきょうみぶかいと思いました。中沢新一さんやレヴィ=ストロースが言うように、トーテムポールや昔話や神話のなかのいっけんシンプルな関係が、複雑な構造をおりなしている場合があります。

そういう、アースダイバーのようにイメージの古層にもぐりながらやすふくのぞみの絵をかんがえることもできるのではないかと、いま、名古屋を過ぎながら考えています。

来てくださった方、最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。


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内容紹介
ツイッターのDMでの会話を本にしました。
御前田あなた@anata_omaeda(柳本々々)と食器と食パンとペン@syokupantopen(安福望)の会話辞典


柳本 にゃにゃあだって伝わるかどうかわからないものね。

安福 にゃにゃあも伝わることあるかもしれないですね。一回だけとか。

柳本 じゃあ、コミュニケーションは奇跡なんだ。

「にゃあにゃあ」
裏表紙より


ブックデザイン:駒井和彬

著者について
柳本々々(やぎもと もともと)
1982年新潟県出身。岩田多佳子『ステンレスの木』、野間幸恵『WATER WAX』、竹井紫乙『白百合亭日常』、『猫川柳アンソロジー ことばの国の猫たち』、徳田ひろ子『青』、中家菜津子『うずく、まる』等の著作に寄稿。

安福望(やすふく のぞみ)
1981年生まれ。イラストレーター 『食器と食パンとペン わたしの好きな短歌』

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