2014年9月19日金曜日

平成二十六年夏興帖, 第四(今泉礼奈・藤田踏青・林雅樹・花尻万博・佐藤りえ・関根誠子・小久保佳世子・羽村 美和子・西村麒麟・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)




   今泉礼奈(平成6年生。現在、お茶の水女子大学3年。東大学生俳句会幹事。)
レモン絞る雲の下より暗き雲
手品する手に秋の蚊の止りけり
手をあげてさつと目の合ふ阿波踊
ひぐらしや目をとぢて黒目を思ふ
遊具みな白きあかるさ秋の夜


   藤田踏青 (「層雲自由律・豈同人」「でんでん虫の会・代表」)
お花畑 神は遊び上手なり
人間の独語が穢す雪渓か
ちんぐるま その名の如く遊び咲く
人間の業か惑ひかケルンといふらし
ディープブルー神が飲み残した山上湖


   林雅樹
今年の夏こそはポロシャツ似合ふ腕に
プールより出で来る女の胴長々
蝮捕マムシに噛まれても平気


   花尻万博
口に合ふ水らし蛍深まりぬ
泥薄く蜥蜴の鼓動照らしけり
遠ければ人も光よ土用波


   佐藤りえ
流星や宇宙と呼ばはるところから
身体は首までに非ず夏痩せて
夏過ぎて遺跡にブルーシートかな
固まつた砂糖を解す今朝の秋
ここへ来て滝と呼ばれてゐる水よ


   関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会所属)
皮膚科出てすぐ銀行の冷房へ
花火果つけだるき肩甲骨一対
蝉時雨に細断されてゐし安し    
生きるてふ眩暈全速力の火蛾


   小久保佳世子(「街」同人)
男出て男が冷蔵庫と残る
サンダルの中から指が延びてゐる
混沌の頭の中がちらし鮨


   羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」同人)
船虫のぞわぞわ真昼の影が行く
大向日葵密書はすでに掘り出され
海鞘食べて第六感に差し障る
揚羽蝶どこからお尻サンバサンバ
碧揚羽いつの夜明けに帰ろうか


   西村麒麟
悩ましき音が出るなり扇風機
友達の好きに寝てゐる夏休み
夏休み長い手紙を書くための
呉れるなら猫の写真と冷の酒
端居して妖しきものかいや妻か


   下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
ビヤホール椅子の数ほど人のゐる
二度とほるすなはち吠ゆる熱帯夜
蓮の花莟はをなじこころとも


   岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
立て掛けし舟を立夏のこぼれ砂
巾着を青酸漿に濡らしけり
遠ざかる海のうねりへ茅の輪編む


   依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
高みまで蝶のせめぎをはなあふひ
人遊ぶところの見ゆる夏野かな
青蘆のをさなごころの痛かりし


   依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)
昼寝から覚める大きな影をつくる
海鳥の取り落とす餌や大南風
一本の楡となるため灼くるなり











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