2024年11月29日金曜日

【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(52)  ふけとしこ

  合はす

歩く歩く両肌脱ぎの蓑虫が

鈴虫の骸に髭の真白なる

みちのくの菊と都の酢を合はす

ぐりのクッキーぐらのクッキーほら紅葉

霜光る誰かの大き靴跡に

・・・

 〈橘始黄〉たちばなはじめてきばむ

 小雪の三候、七十二候にこういう。

 橘ではないが枳殻のまん丸い実も熟れている。生垣の下にころころと落ちている。一つ拾ってみた。柔らかい産毛が掌に気持いい。この実には種が多かったと記憶していたので、半分に切ってみた。直径2.3cm。種を数えると24個。まさに種だらけ、種密度が高い。

  からたちの花が咲いたよ

  白い白い花が咲いたよ

と始まる北原白秋の詩「からたちの花」には

  からたちも秋はみのるよ

  まろいまろい金のたまだよ

と実を詠った一節もある。鋭い棘も詠っているが、さすがに種のことまでは言っていない。

 カラタチはミカン科ミカン属の常緑低木。3㎝にもなる太くしっかりした棘が目立つ。この棘が賊や獣の侵入除けになるとのことで、畑や住宅の生垣に使われていたが、今ではあまり見かけなくなった。

 いつだったか、小学校の生垣にされているのを旅先で見かけたことがあった。手入れが大変だろうし、児童達が怪我をすることもあるかも知れないな、と思ったりもした。

 でも、初夏に白い花が咲き、秋に実が熟れる生垣というのは何とも素敵なものである。

 香りはいいが、酸味と苦味が強すぎて食用にされることはまずない。これは橘も同様だろう。

 『合本 角川俳句歳時記・第五版』の巻末付録に〈二十四節気七十二候〉があるが、これには「橘が黄葉し始める」と書かれている。橘は常緑樹で、それ故に古来尊ばれてきたわけでもあるから、黄葉はしないはず。偶々見つけただけなのだけれど、気になる。

 他に2、3の歳時記を当たってみたがどれも「橘の実」となっている。校正の際の見落としだろうが、こういうことも起こり得るのだ。初校、再校、再々校と綿密なチェックが入ったことだろうに。

 三浦しおん作『船を編む』の辞書作りの顛末、てんやわんやをを思い出した。

 (2024・11)