2023年3月24日金曜日

第33回皐月句会(1月)[速報]

投句〆切1/11 (水) 

選句〆切1/21 (土) 


(5点句以上)

9点句

セーター脱ぐ見知らぬ影をおくやうに(田中葉月)

【評】 脱いだ服が何か生き物のように思えて怖くなる時がある。そのセーターを自分の影と表現したのが面白い。──辻村麻乃

【評】 比喩が素晴らしい。若々しく、微かな哀しみも滲む。──仙田洋子

【評】 身体を温めるセーターを「影」と感じ取る「孤独」の描写のしかたに惹かれた。──堀本吟

【評】 脱ぐまでは自分と一体化していたセーター。脱いだ途端それはただのモノになった。「見知らぬ影」が言い得ていると感心した。──依光陽子


8点句

脱ぎ捨てし手袋いつも過去を指す(中村猛虎)

【評】 手でも指でもない、手袋がいい。──筑紫磐井


7点句

手際よくラップに包む初昔(妹尾健太郎)

【評】 昨日のことになってしまったできごとや記憶は、冷蔵庫(冷凍庫)におさめておけばいつでも取り出せる。捨てるには惜しいものの今の用には無益である、という実用品として保存されるところが、今風の感覚である。「ラップに包む」というところに明るい毒がある。──堀本吟


一月一日一重まぶたの妻といる(望月士郎)

【評】 おめでたい数の一が重なるという符丁をうまく使って、ついでに妻を誉める。年頭のドメスティックなサービス精神。普段ならこんなことは照れくさくて言えない。──堀本吟

【評】 一一一の地味な並びが素敵だなあ!昔、あこがれは真行寺君枝の様な切れ長の、揺れる眼差しにだったが…?いつも隣には、二重瞼の大きな目があった(類は友を呼ぶ?、私は二重のドングリ眼!)…、一一一がいい!──夏木久

【評】 言葉の遊びのようだが、夫婦の本質をついている。漱石の『明暗』の細君も一重瞼であったような記憶がある。──筑紫磐井


6点句

富士塚の上の人にも御慶かな(辻村麻乃)

【評】 〈富士塚〉と、間接的に目出度い景物を出した処が上品な手筋で、一句の姿の宜しさとなっています。──平野山斗士

【評】 富士塚から富士山は見えたでしょうか。いずれにしても、お正月らしいめでたい句。季語が効いている。──仙田洋子


5点句

出逢わないかもしれない立体交差 春(夏木久)


めしべから眠り始める返り花(松下カロ)

【評】 芯の太い雄蘂よりも細い雌蘂から萎れてゆくことを発見したのでしょう。返り花の弱々しさを雌蘂に焦点を当てて見事に描写されています。──篠崎央子


目と口と同時に開くや木偶回し(西村麒麟)


(選評若干)

冬薔薇逢へば烈しきことばかり 4点 真矢ひろみ

【評】 恋愛はかくありたい。仙田洋子の「雷鳴の真只中で愛しあふ」(仙田洋子)を思い出す。──筑紫磐井


ものかげを出でものかげへ初鴉 4点 小沢麻結

【評】 寒鴉だと陰鬱な句になってしまうが、初鴉なので、影とめでたさとのバランスがとれている。──仙田洋子


象のみる翔ぶ象の夢春隣 4点 真矢ひろみ

【評】 咄嗟に摂津さんの「生き急ぐ馬のどの夢も馬」を思った。しかし、こちらの作品は有季定型でそのトーンは明るい。動物が同種の動物の夢を見るという骨格だけしか似ていないとも言える。レントゲンを撮ったらそっくりな二人みたいなもの、しかし換骨奪胎という言葉もある。──妹尾健太郎


ひめ始め黒髪が火となることも 3点 篠崎央子

【評】 上品な言葉遣いだが、読みようによってはやけに生々しい。『愛のコリーダ』の映像ではないか。


猿廻し子らの視線の先は猿 2点 千寿関屋

【評】 子供はこういうものですね(笑)──仙田洋子


初空の浜の足痕無限かな 2点 平野山斗士

【評】 初空の季語が良く効いている。浜の足痕は自分のものだか、他の人のものだかは解らない。それがずっと続く光景は良くあるが、初空にすることで、無限への期待感が生まれる。自分のものなら過去へ、他の人のものなら未来へ。──山本敏倖

【評】 よく読むと不思議な光景。誰がどこまで歩いて行ったのだろうか。──堀本吟


初御籤末吉上等待ち人来る 1点 水岩瞳

【評】 こんな人生観が俳句なのであろう。短歌にも、現代詩にも、小説にも、戯曲にもならない。我々の生活の一瞬である。波郷は「俳句は文学ではない」と言っていたのはこんな謂。──筑紫磐井


捨てられぬ手紙よどんど火が果つる 1点 篠崎央子

【評】 捨てられぬうちにどんどが果てた。──依光正樹


初春の日差し走者の髪に跳ね 3点 小沢麻結

【評】 箱根駅伝だろうか。新春のめでたさ、懸命に走る走者の若々しさに惹かれる。日差しの跳ねる様が美しい。──仙田洋子


うさぎとも見える蜜柑を剥いた皮 3点 小林かんな

【評】 皮の裂けている残骸がなるほど。そう思えばそう見える。卯の年の今年だからこそ蜜柑の皮でもおめでたく見える。──堀本吟