2022年7月1日金曜日

北川美美俳句全集19 

117号「動かぬ象」2014年7月1日


春昼の観覧車より見る売地

たなびくは春山火事と白シーツ

アダムにも前妻はあり春の土

夏至の夕吐く息少し長くとる

夏来る動かぬ象に集まる子

紫黄忌の机上に置きし石ひとつ

伸びて寝る猫の喉元紫黄の忌

瓢箪の暗きを覗く鯰かな

水流れ行きつく穴や涼新た

水澄むや山本紫黄の小さき文字


面118号「噛み跡」2015年4月1日


雪解水樋の外側つたいけり

海の水少しまじりし蜆汁

西東忌音消している消防車

噛み跡は鮎の歯型や藻の盛り

赤と白遠泳の列沖へ出る

頭蓋とは蓋になる骨曼珠沙華

寄生木を狼も見し奥の山

廊下堅し夜寒の底のくらがりに

枯草の折れ曲がりつつそよぐかな

人といてさびしき時を輪投げかな


面119号「夜の水路」


文鎮は紙をとらえて立夏かな

七月の沼に空あり雲育つ

夏山やおとこの息とすれ違う

杖の柄で茱萸の赤いの引き寄せる

車窓まだ山中にあり昼寝覚

幽霊はだいたい女紫黄の忌

赤紫蘇に水染まりゆく母の留守

秋灯が点から線になつてゆく

紺屋まで夜の水路を秋の水

崩落の崖留めている枯木の根

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