2022年7月15日金曜日

【抜粋】〈俳句四季7月号〉俳壇観測234 松尾さんの思い出——東京四季出版の創業者の志  筑紫磐井

 雑誌創刊者として

 東京四季出版の創業者であり、「俳句四季」を創刊した松尾正光さんが三月十二日に亡くなられた。松尾さんは、昭和二十二年四月東京生まれ、竹早高校では緒形拳と親しく、演劇同好会を二人で立ち上げた。緒形は知られるようにその後新国劇に進んだ。松尾さんは武者小路実篤に師事、「新しき村」の運動に参加し、その後多くの文化人と知り合い画廊(ギャラリー四季)を始めた。理想主義の人だったのだ。出版業に移った経緯はよく知らない。東京四季出版は昭和五四年三月に創業しているが、しばらくは、「四季出版」の名で詩歌・俳句の本を刊行していたようだ。当初は銀座に編集部があった。

 「俳句四季」は昭和五九年一月に創刊している。当時「俳句」(角川書店)「俳句研究」(高柳重信編集として有名だが、六一年からは角川系の富士見書房の刊行となる)と「俳句とエッセイ」(牧羊社)という総合誌があったが、「俳句四季」はここに割って入った形となる。この時本阿弥書店の「俳壇」も創刊(六月)されているのだが、競い合ってというよりは補完しあってといった方がいいようだ。創刊以来両誌は広告を載せあっている。角川俳句に対抗しあったというべきだ。

 「俳句四季」の特色は、「創作・紀行・情報・写真」「目で見る月刊俳句総合誌」をキャッチフレーズにしているように一貫してビジュアルな雑誌であった。例えば貴重な写真を満載した「俳人アルバム」(新潮社の『日本文学アルバム』シリーズをモデルにしたものだという)・「結社アルバム」の連載は現在となってみると、戦後の俳句風景を目の当たりに確認できる貴重な資料となって居る。

 併行して、「短歌四季」を創刊(平成元年。ただし残念ながら一六年に終刊している)、表紙には浅井慎平氏を七年から起用して現在まで続いている。一三年からは俳句四季大賞を始めている。俳人以外の方々に寄稿を依頼したのも特色であり、印象にあるのは詩人の宗左近氏で、『さあ現代俳句へ』『21世紀の俳句』長期連載を依頼した。宗氏が中句という新しい詩形式を提案したのもこうした理由であろう。

 当時の編集後記には〈蝸〉が署名されているが、これは松尾さんのペンネームだ。名前だけの発行人だけではなく編集にも参画していたのだ。記事の中には松尾さん自身が参加したものもある。「新・作家訪問」で、一三九名の俳人をインタビューしたもので、後に『戦後俳句を支えた100俳人』正続上下としてまとめている。


出版人として

 雑誌を少し離れて出版業として見ると、従来から行っていた単行本の句集に加えて、早くからシリーズを刊行した。「秀逸俳人叢書」「俊英俳句選集」「新鋭句集シリーズ」が初期のもので、特に「新鋭句集シリーズ」は若い世代を中心に構成されており、なかなか登場しがたかった新世代の発掘にも貢献した。当時、牧羊社が「処女句集シリーズ」を開始しており、好一対の企画であった。牧羊社のそれが若い人が出しやすいためにペーパーバックスの安価な句集であったのに対し、「新鋭句集シリーズ」はなかなか洒落た装丁でボリュームのある句集であった。私の第一句集も実はこのシリーズに声をかけられたものであった。

 やがて、東京四季出版独自の大企画が登場する。『処女句集全集』、『処女歌集全集』、『最初の出発』、『現代俳句文学アルバム』、『歳華悠悠』、『現代俳句鑑賞全集』、『21世紀現代短歌選集』、『平成俳人大全書』、『現代一〇〇名句集』と大冊のシリーズが登場する。

(中略)

 松尾さんには、前述した編集後記やインタビューに当たっての質問者としての言葉は多くあるが、本格的評論はあまり見ない。最後にその数少ない創刊時の言葉を眺め、我々への頂門の一針としよう(「松尾正光「空想的結社論」俳句昭和五九年一二月より)。松尾さんは、総合誌の発行人として当然結社を肯定している。ただその未来を見る目は厳しい。


 「伝統芸術が衰退のきざしにある今日の傾向の中で、俳句人口だけが増え続けている理由の一つに、俳句が師弟関係のうえに成り立っている文学であることがあげられるであろう。」

 「今日の俳句隆盛は、荒廃した戦後をたくましく生き抜いてきた猛烈主宰者の奮闘の成果だと思うのだが、俳句の質の向上は、これからの俳人の意識がどれほど深く、どれほど広く発展していくかにかかっていると思う。」

 「私は俳句が衰退して行くとしたら、主宰者が結社の運営をあやまったときだと考える。主宰者も会員も私利私欲に走って、全体の調和を忘れたとき、つまり結社の運営が乱れたとき、俳句離れがはじまる。」

 「師弟の関係と、師から教わる姿勢を持つ俳句の最後の挑戦が、これからはじまるのである。」

※詳しくは「俳句四季」7月号をお読み下さい

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