2022年4月29日金曜日

北川美美俳句全集 15

●面106「夜もすがら」 2007年4月1日


幸不幸決めてください初鏡

春大根を抱き寄せ運ぶ老夫婦

石神井の愛人宅は薔薇盛り

パリロンドンソウルトーキョー吊忍

大切な言葉消します蝉時雨

暑中見舞出して地球儀廻しおり

以前から嫌いな女月見豆

夜もすがら栗剥く小さき台所

三田一丁目クスリ屋の角秋の暮

煮凝の魚らここから旅立たん


●面107「迷い犬」 2007年12月1日


母の日や母恋人の花を買う

初はじめ楽譜を抱いたお嬢さん

双生児お花畑をスキップで

恋人は素足のままで駆けてくる

迷い犬ひたすら走る夏の雨

観覧車とても電飾蛍の夜

地平線スーサイドクリフ終戦忌

宿題は雑巾十枚夏休み

迎え火の御霊が上る昇降機

携帯をとらぬ紫黄の半ズボン


●面108「夏がきた」 2008年10月15日


賀状書く琉球切手あと三枚

忙しい忙しいよと鳥帰る

X線に映し出された蜆かな

菜の花やジャズるこころに那覇の雨

恋文に進展と書く青葉かな

夏がきた離婚記念日朝ごはん

慰霊碑は都道府県別白日傘

正座した妊婦がひとり夏座敷

まぼろしの瓢箪池のみずすまし

紫黄忌の三崎の果ての浜で待つ


●面109「死んだ女」 2009年7月1日


初声のかもめ悲しき三浦かな

不機嫌な現実・現在・日向ぼこ

春の夜コロッケ・ソース・恋忘レ

たんぽぽよ繋がって繋がってあなたへ

花水木溺レル揺レル青天に

父は砂糖母は塩ふるトマトかな

夏の朝死んだ女に猫二匹

エスカレーター女の踵に菊が咲く

赤い眼で赤い月みる終電車

満州に置き去りにした雪女郎


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