●面106「夜もすがら」 2007年4月1日
幸不幸決めてください初鏡
春大根を抱き寄せ運ぶ老夫婦
石神井の愛人宅は薔薇盛り
パリロンドンソウルトーキョー吊忍
大切な言葉消します蝉時雨
暑中見舞出して地球儀廻しおり
以前から嫌いな女月見豆
夜もすがら栗剥く小さき台所
三田一丁目クスリ屋の角秋の暮
煮凝の魚らここから旅立たん
●面107「迷い犬」 2007年12月1日
母の日や母恋人の花を買う
初はじめ楽譜を抱いたお嬢さん
双生児お花畑をスキップで
恋人は素足のままで駆けてくる
迷い犬ひたすら走る夏の雨
観覧車とても電飾蛍の夜
地平線スーサイドクリフ終戦忌
宿題は雑巾十枚夏休み
迎え火の御霊が上る昇降機
携帯をとらぬ紫黄の半ズボン
●面108「夏がきた」 2008年10月15日
賀状書く琉球切手あと三枚
忙しい忙しいよと鳥帰る
X線に映し出された蜆かな
菜の花やジャズるこころに那覇の雨
恋文に進展と書く青葉かな
夏がきた離婚記念日朝ごはん
慰霊碑は都道府県別白日傘
正座した妊婦がひとり夏座敷
まぼろしの瓢箪池のみずすまし
紫黄忌の三崎の果ての浜で待つ
●面109「死んだ女」 2009年7月1日
初声のかもめ悲しき三浦かな
不機嫌な現実・現在・日向ぼこ
春の夜コロッケ・ソース・恋忘レ
たんぽぽよ繋がって繋がってあなたへ
花水木溺レル揺レル青天に
父は砂糖母は塩ふるトマトかな
夏の朝死んだ女に猫二匹
エスカレーター女の踵に菊が咲く
赤い眼で赤い月みる終電車
満州に置き去りにした雪女郎
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