2020年2月7日金曜日

【ふけとしこ第5句集『眠たい羊』を読みたい】3 自画像  曾根 毅


自画像の頬に青足す桜どき  ふけとしこ

 先日、ノルウェーのオスロ国立美術館所蔵のゴッホの自画像が、本物であることが確認されたというニュースを見た。自画像は1889年8月頃に描かれたもの。ゴッホが南フランスに移り、精神的な障害に苦しんでいた時期の唯一の作品だという。作品の真贋について、色合いや主題の表現が当時のゴッホの画風とは合致しないという指摘が出ていたようだ。2014年に、オスロ国立美術館とオランダ・アムステルダムにあるゴッホ美術館が共同で調査を行うことで合意し、広範な調査を行った結果、本物であることが確認されたというもの。ゴッホは、パリに出て来た1886年の春から、サン・レミの病院に入院していた1889年秋にかけて、40点近くの自画像を描いている。それらは、同一人物とは思えないほど多彩なニュアンスで描かれた。
 他人の顔や風景を比較的客観的に捉えることが出来たとしても、自分自身を客観的に描くことは難しい。どこかで自分を理想化し、自己の内面や存在を主観で表現してしまうのかもしれない。それに、人は物事を見つめながら、その物事を通じて自分の経験を見ていることが多いような気がする。人間や世界を捉えようとしたときに、その多面的で複雑なありようを一つの場面に留めるのでなく、描く度に異なる表情や色彩で変化を表したほうが、自然であるということも考えられる。
 今回本物だと確認されたゴッホの自画像は、幻想的な青のなかに、狂気的で異様な画家の内面を感じさせるものだった。精神性の象徴ともいえる青に、ゴッホの意志を読み取ることもできそうだ。掲句の青色について、ふけさんはこの絵の青と同じような意味合いで、自画像に青を描き足しただろうか。もしかすると、桜の頃の澄んだ空の冷たさや輝きを表すような、日本の伝統色としての藍を配したのかもしれない。『眠たい羊』は、ふけさんの様々な表情を見せてくれる句集だ。同時に、読者の多様な心を映し出す句集でもある。

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