2014年8月8日金曜日

【小津夜景作品No.35】




式子内親王に捧ぐオード    小津夜景


あぢさゐの
雨を祀らし
反古の庭

夏痩せて
空約束の
ゆかしけれ

底酔ひの
わが頭に冠る
おほくらげ

青梅や
好きところなく
嫌と申す

物忌んで
逢ふよしもなし
夏の山

独り居や
なまくら趣味の
姫と瓜

狂句癖
ろまんろまんと
暮れにけり

はねあふぎ
しづかなること
凄きかな

炎暑かの
猟奇の琵琶に
隕つるべし
 
金魚玉
水のまなこを
沈めたり

暗殺や
金魚の口は
二度ひらく
 
蟷螂の 
口々に手を
読みあへり

しまうまは
秘伝あやしき
真水飲む
 
喉滴る
山河のごとく
人を恋ひ

恋ひ恋ひて
絶つを忘るや
古鋏

かさぶたの
跡をほのかな
空蟬よ
 
夕立を
摑まへずして
浮く手かな

白玉に
夜半のねざめを
鎖ざすかな

衣更へて
こころ幾重の
遺書ならむ
 
形なく
而して嗚咽
ほととぎす

蟻の塔
思ふ間もなき
うしろかげ
 
閑古鳥
磁石のごとく
あかときよ

夢は井戸
汲みし昔は
遠けれど











0 件のコメント:

コメントを投稿