2014年5月30日金曜日

上田五千石の句【テーマ:「墓」】/しなだしん


風薫る青山ここに定まりて   上田五千石

第三句集『琥珀』所収。昭和六十三年作。

前書きに「富士霊園 文学者の墓に生前手続きす 二句」とあり、二句目には

ゆめに雪桂信子と墓仲間
がある。

前書きの通り、この句は己の墓を購ったときの句である。

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富士霊園は静岡県駿東郡小山町にある霊園。昭和四十年開園、宗派不問。

富士が見通せる広大な暮域に約七万区画と関連施設があり、春には街路の桜が咲き、五月頃には躑躅が咲き誇るという。

前書きの「文学者の墓」とは富士霊園内にある、日本文藝家協会所有の共同墓であるらしい。霊園の高台にある文学碑公苑には碑があり、また墓碑には日本文藝家協会会員の名がずらりと刻まれている。二句目にある通り「桂信子」の墓もここにあるのだろう。

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「青山せいざん)」はもともと、「樹木の青々と茂った山」の意味だが、「骨を埋める所、墳墓の地」の意味がある。これは中国北宋代の政治家、詩人、書家であった蘇軾(そしょく)の獄中の詩の一節「是処青山可埋骨(是の処の青山 骨を埋む可し)」からきているらしい。「いたる処青山、骨埋めるべし」、これで青山を墓とするのはなんだか強引な気もするが。

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ちなみに二句目の「ゆめに雪」は、一句目の時期と合わず、季語として成立してはいない。敢えて無季の句、ということになろうか。それにしても「ゆめに雪」は桂信子の何へ繋がっているのか。雪の句だとすると「窓の雪女体にて湯をあふれしむ」だろうか。

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掲出句の「風薫る」には現場の臨場感があり、「ここに定まりて」にはしずかでどこか清々しい気分が伝わる。

この句の年、五千石五十四歳。この十年後の九月、生前手続きをしたこの墓に骨を埋めることになる。


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