2016年4月22日金曜日

抜粋「俳句四季」5月号<俳壇観測連載第160回・深化する俳人とは?――少し変わったキャリアの持ち主たち> 筑紫磐井



○藤野武『火蛾』(二〇一六年一月角川文化振興財団刊)

藤野は、昭和二二年東京生まれ、「山峡」で角川俳句賞受賞直後、第一句集『気流』を上梓、今回の『火蛾』は二〇年ぶりの第二句集に当たる(中略)兜太門らしさはやはりその激しさにある。社会性俳句らしい、東日本大震災を詠んだ句に明らかに表れているがここではそれをひとまずおいて、日常詠から抜いてみよう。

恋も習慣この間がくれに激しき月
初潮の子冬田に光の破片破片
嘔き気するほど路地明るくて夏は来ぬ

しかしとりわけ好感が持てるのは、老いて獲得した優しい眼差しである。角川俳句賞作家の深化とはこんな作品をいうのではなかろうか。

パンの香と淡雪の音妻の午後
菜の花よ生まれなかったもろもろよ
法師蟬生き急ぎたる君をふと

○飯田冬眞『時効』(二〇一五年九月ふらんす堂刊)

角川書店「俳句」の編集長が退任後俳句を始めたと聞いた。(中略)恐らく俳句雑誌の編集部にいた人が、意識すると、しないとを問わず上から目線で見かねないのに対し、結社主宰者に弟子入りすることは勇気のいることであろう。編集長としてのかつての自分の見識が全否定される可能性もあるからだ。その意味で、飯田の句集は面白く読ませてもらった。

大朝寝遺影めきたる社員証
新樹光家族写真に知らぬ人
官邸を包み込みたる蟬時雨
母の日の母と遺影を撮りに行く
夏終るちつぽけな肉ぶら下げて
凩や死者も生者も海より来

これらに限ることは飯田の俳句世界を限定することになりそうだが、こうしたシニカルな作品は、「俳句」編集長以後結社でひたすら愚に徹して言葉の修練に励んだことにより生まれた深化であろう。


※詳しくは「俳句四季」5月号をお読み下さい。
※文章・俳句作品は一部抄録。

東京四季出版 「俳句四季」  






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