銀河を
土蜘蛛が糸を放てば秋暮るる
複写紙に足らぬ筆圧文化の日
戦車傾く銀河を渡り損ねしか
南瓜叩く魔女だつた日は無かつたが
黒牛の背に乗るもの狐火も
・・・
「大丈夫ですか」
若い女性の声がした。
ああ、綺麗な人だな。
「頭打たなかったか?」
今度は男性の声。
「救急車が来るからね」
これも男性の声。
吟行の帰り、梅田の地下街の雑踏の中だった。
一瞬頭に靄がかかったような気がした。脚に力が入らない。そのまま寝るような姿勢で倒れ込んでしまった。膝から崩れるというけれど、こういうのをいうのかしら。馬鹿なことを考えていた。
救急隊のお兄さん、
「はい、着いたよ。もう大丈夫だからね」
「名前言える?」
「生年月日は?」昭和が出てこない。西暦で何とかクリアー。
「今日何日か分かる?」出てこない。「えーと、えっと……14日かな」「惜しい! 15日や」流石、大阪の救急隊員だなと、内心ちょっとニヤリ。この時はまだ意識があった。
病院へ着いたのは覚えていない。
検査も色々されたようで、採血とか心電図とかの名残りのようなベタベタやネトネトが腕や胸に残っていた。
気が付いたら、「コロナ陽性。帰宅させても大丈夫だろう」という声が聞こえた。しばらく休んだ後、事務の人がタクシーを呼んでくれた。
そこからまた記憶が無い。タクシー代はちゃんと払ったらしく、釣銭らしい札や小銭がリュックにバラバラと入っていた。
帰宅後、全身の疼痛が始まった。コートだけは脱いだが着替えができない、ベッドへ上がれない。助けようと出される手が触れただけで痛い。水も飲めない。そのまま床で眠り込んでしまった。
3日後には熱もさがり、6日が経つと、全身の不愉快にして強烈な痛みも落ち着いてきた。鼻水と軽い咳は未だ残っているけれど、少し食べられるようにもなった。
ワクチンを打っていてもこの有様である。重症だった人たちはどれだけ苦しかったことだろう。
この度は多くの人たちのお世話になった。有難うございました。
(2023・11)