2023年11月10日金曜日

第40回皐月句会(8月)

投句〆切 8/11 (金) 

選句〆切 8/21 (月) 


(5点句以上)

11点句

長き夜の本をこぼれし正誤表(仲寒蟬)

【評】 長編大冊に挑んでいる秋の夜長、移動する折に正誤表がこぼれ落ちたことには気づかなかった。そのため重要な訂正を行なわずに作品を読み進めることに。たとえばミステリー、夜とともに致命的な謎が深まる。──妹尾健太郎


10点句

心臓は四部屋リビングに金魚(望月士郎)

【評】 四部屋で切って頂く。心臓には左心室、左心房、右心室、右心房の四部屋。わがリビングには金魚がいる。内と外の二種類の部屋のイメージがぶつかり、次のイメージを誘う。炎上する炎が見えた。──山本敏倖

【評】 人間の心臓は二心房二心室、心室は音で寝室にも通じる。そこへ「リビング」と持って来たところが上手い。金魚のところは他にもやりようがあった気はするが。──仲寒蟬


8点句

チというて蟬の当たりし日傘かな(岸本尚毅)

【評】 確かに「チ」と鳴きますね。この句では、季重なりはあまり気になりませんでした。──仙田洋子


7点句

にんげんの流れるプール昼の月(望月士郎)

【評】 鳥瞰的に書かれている流れるプールの風景が、下五に「昼の月」を置くことでさらに高く、まるで宇宙からの視たような感覚になる。ここで描かれている「にんげん」は愚かな存在として等しいただの生命体だ。冷めた眼。──依光陽子


6点句

信金の出張所ある避暑の町(岸本尚毅)

【評】 「信金」と「出張所」と「避暑」の距離感、浮遊感が独特です。──佐藤りえ


犬のこゑ夾竹桃のうらがはに(佐藤りえ)


(選評若干)

放蕩や指の味する胡瓜揉み 4点 松下カロ

【評】 胡瓜揉みのこういう感覚も俳句になるんだなあ、となかばあきれて・・。思わずぬいたもののいただいてしまった、という好例。──堀本吟

【評】 「昔をとこありけり」の河内国高安の女を髣髴とさせます。──仲寒蟬


兵ひとり死んでも異常なしの朱夏 3点 水岩瞳

【評】 兵隊、いや人間ひとりの命の軽さ。死んだからといって、世界を揺り動かす人などいない。──仙田洋子


落ちて死すか死して落つるか落蟬は 3点 小沢麻結

【評】 地下鉄がどうやって地下に入ったかと同じくらいどうでもいいことなんだがあの死骸を見るとそう考えてしまう。──仲寒蟬


蝉の穴さびしき風の棲んでをり 4点 田中葉月

【評】 蝉がいなくなった後の蝉の穴にはさびしい風が住んでいるのか。とても共感できる。──仲寒蟬


屍に向日葵の種を撃ち込む 2点 中村猛虎

【評】 銃に向日葵の種を詰めて撃つ?その屍に向日葵は育って咲くのか?屍を栄養にした向日葵は希望それとも絶望の証?なんとも言えないやりきれなさを感じる。──仙田洋子


剥がしても剥がしても眼帯はいちまいの海 4点 堀本吟

【評】 結膜炎になったときの眼帯のガーゼを思い出しました。ガーゼ越しのぼんやりとした明るさは海のよう。──篠崎央子


落蝉を踏めば星空鳴りわたる 3点 真矢ひろみ

【評】 踏む勇気を持たない私は、足元の暗さに思わず踏んでしまったと受け取ります。星空が鳴り渡ったという詩的展開、蟬の命を讃えるような星空に惹かれました。──小沢麻結

【評】 夜の蝉殻の句を見たのは初めて。暗闇で踏みつけたときの毀れる音を星空の音と感じた。美しい虚無感がきらめく。──堀本吟


弔電が読まれ素麺流れけり 4点 松下カロ

【評】 二つの行為には関連性がないものの、人を悼む時にも生きている人は食べるという対比が現実をよく示している。──辻村麻乃


いつの間に裏の婆死に葛の花 3点 仲寒蟬

【評】 孤独な婆。孤独な作者。時間こそ違え、どちらもひっそりと死に、あっさりと忘れられる。──仙田洋子


迎鐘べたべたの日が顔に触れ 3点 西村麒麟

【評】 霊迎のための鍾を衝く。夕方の日はまだ暑い。これもすっきりしない俗っぽい感覚が上手く句になっている。──堀本吟

【評】 如何にも京都の暑苦しい気候を思い出させる。「べたべた」という乱暴な表現が効果的。──仲寒蟬


萩の雨夕べの墨の磨り心地 3点 渡部有紀子

【評】 ちと閑寂すぎるほど閑寂の趣にて、皐月句会のこの場における句の並びの中にあっては一つの文鎮の如き手触りを具えた句と見ました。──平野山斗士