2020年1月10日金曜日

【連載】英国Haiku便り(2) 小野裕三


ポエトリーの国のHaiku
 あくまで個人的な印象での話だが、イギリスには詩(poetry)を尊重する気風があるように感じる。象徴的なのは、国立の詩専門の図書館(National Poetry Library)の存在だ。詩集や詩の専門書、雑誌の類が館内にずらりと並ぶ様はなかなか壮観でもある。街中の書店でも詩の専門書棚が大きく置かれていたり、地域の公民館では「詩を作りましょう」みたいな講座が普通にあったりする。もっとも、日本ではそのような部分の多くを俳句・短歌が担っている、とも言えるが、ただ、日本での「詩」よりも「ポエトリー」という言葉は幅広く使われているようで、時にはレースみたいな分野でも「スピードのポエトリー」みたいな表現が使われていたりして驚く。
 そんなポエトリーの国で、実は意外な形でHaikuが広く普及していることに最近気づいた。ある日イギリス人の若い女性にHaikuの話をしていたところ、「あら、私、小学校でHaikuを作ったわよ」と言われ、びっくりした。変わった先生でもいたのかな、と思ったら、別の中年の女性には「うちの子も学校でHaikuを作ったよ」と言われてまた驚いた。ネットで調べたところ、どうやら現在のイギリスでは小学校低学年くらいの時期に、多くの学校でHaikuを作るらしい。
 ネットにあったHaiku教材を見てみると、Haikuは日本に起源を持つ短い詩で、主に自然を材とする、といったことが書かれている。子供たちへのお手本作品もあるが、おそらくは日本の俳句を英訳すると五七五のリズムにはなりにくいからか、イギリス人が作った五七五のHaikuがお手本となっている。
 Haikuを小学校で学ぶ目的のひとつとしては、音節(syllable)の概念を理解することがあるようだ。英語の音節を一単位として五・七・五と数えていくわけで、「Haikuをみんなで声を出して読みながら音節ごとに手を叩くとわかりやすいですよ」とアドバイスする教材も見かける。
 面白いのは、子供たちに受け入れられやすいからだろう、Haikuが「なぞなぞ」のようなものとして指導されている例があることだ。例えば、「緑色で足に斑点があって、丸太などの上を跳ね、水に飛び込む」みたいなHaikuを元に、先生が子供たちに「さあ、これは何の生き物でしょう?」と聞くわけだ(ここの答えは「蛙」)。「このようにHaikuはなぞなぞみたいにもなります」と書く手引き書もあって、さすがに「いやいや…」と突っ込みたくなった。もちろんその一方で、「五感を使って季節を感じ取りましょう」と教える正統的な教材も多くある。
 いずれにせよ、こんな具合になぞなぞHaikuを作りながら、自国語の韻律の単位を理解して育ったイギリス人たちが、このボエトリーの国で将来どんな詩の文化を作り出すのか、と考えるとなかなか興味深い。
(『海原』2019年1-2月号より転載)

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