2026年4月17日金曜日

英国Haiku便り[in Japan](61)  小野裕三

英語俳句の選者として


 日本英語交流連盟ウェブサイトの英語俳句投句欄の選者を始めて一年が経つ。
 そこで感じたのは、異なる文化や風土に由来する詩が、haikuと出会い生まれる独特の輝きだ。それは一つには、日本では馴染みの薄い題材ということもある。


first kisses –

hesperus shines low

in the blue hour     Maria Tosti


初めてのキス / 宵の明星は青い時間に / 低く輝く


 キスが日常的行為である文化もある。「エア・キス」といって、口同士を接触させないキスという意味だ。この句がそれを意味するかは不明だが、キスの行為への感覚の違いは根底にありそうだ。


emigration

the scent of her lilacs fills

the crowded train Urszula Marciniak


移民 / ライラックの香が満ちる / 混み合う電車


 「移民」といったモチーフはなかなか日本の俳句では見かけない。社会の背景や人々の感情も伝わってくる気がする。


deepening cold . . .

the quilt maker comes hawking

on a creaking bicycle

         Kanchan Chatterjee


深まる寒さ / 軋む自転車に乗って / キルト職人が売込に来る


 軋みと寒さが巧みな照応となり、異国情緒のある素朴な風景が心を捉える。
 とは言え、異国情緒という要素は英語俳句を見定める場合にはやや厄介だ。日本人には新鮮に見えても、実は現地ではよくある風景、ということもありえる。
 一方で、具体的な題材が異国的というより、感覚が異国的と思える句もある。


hasty judgments

irregular bunches

of grapes

       Barbara Anna Gaiardoni


軽率な判断 / 葡萄の / 不揃いな房


 一行目は日本の俳句ではなかなか出てこない一言だろう。ワインに親しむ国では、葡萄への感情も違うかも知れない。


colored driveway

three generations

of pebble lovers    Govind Joshi


色のついた私道 / 小石を愛する / 三世代


 時間の流れの中に、作者の住む国の文化や風土が生き生きと見えてくる。
 ここには拾わなかったが、海外の戦争や紛争が起きている地域からそれを題材としたhaikuが投稿されることもある。心は動かされるものの、事実の重さと作品の良し悪しは別物、と自制している。ただ、haikuとインターネットという組み合わせは、世界で刻々と起きる多様な風景や感情を素早くかつ端正に伝えるのに適しているのは間違いない。そこにhaikuの可能性のひとつがあると思う。


※写真は日本英語交流連盟ウェブサイトより

(『海原』2025年1-2月号より転載)