2026年2月13日金曜日

英国Haiku便り[in Japan] (59)  小野裕三

 haikuな日々

 日々暮らすうちに、haikuを巡って海外のいろんな人との接点が増えていく。

 ある日は、人伝てにスウェーデン人のhaijinから連絡があり、現地で吟行をやるので、吟行の心得を教えてくれ、と言う。吟行に特別な秘訣はないけどなあ、とも思いつつ、手帳と筆記具を持ち歩け、思いついたらその場で書き留めよ、の二点をアドバイスした。すると、「わかったわ、やってみる。今度、私たち、宮殿公園で吟行するのよ」と返信が来た。宮殿公園にスウェーデン人が集まって、僕のアドバイスどおりに吟行するさまを思い浮かべるとなんだか面白い。

 それからしばらくして、アメリカ人のhaijinともやりとりした。日頃から疑問に思っていたことを二つ質問してみる。

 質問一、日本人は五七五のリズムが体に滲みつき、指折り数えなくても五七五だとわかるが、アメリカ人はどうか?

 質問二、日本では歳時記は俳句作りには必須だが、アメリカ人はどうか?

 質問一への答えは「最近は指で数えなくても、五七五だってわかるわ」。質問二への答えは「うちの団体では英語俳句のための歳時記を作ってるのよ。ウェブサイトに載ってるわ」。

 そのウェブサイトを見に行くと、確かに季語のリストがある。とは言え、そこにある季語の数は数百のレベル。日本の歳時記のように数千や万を超える数には遠く及ばない。それから会話をするうちに、ねえ、このhaijinを知ってる?、と僕のまったく知らない英語の俳人を紹介してくれた。

 As Nile dusk deepens

 egrets blizzard to the same

 solitary isle.    James W. Hackett

ナイルの夕暮れは深まり / 同じ孤島へ / 白鷺が殺到する  J. W. ハケット

 そんな日々を過ごすうちに、今度は依頼ごとが舞い込む。日本に研修旅行に来るアメリカ人の高校生たちに、俳句を教えてほしい、とのこと。その打診から約二ヶ月後に実際にやることになり、四十人近くの高校生を前に、俳句とは何かの講義、俳句実作、そして討議、とみっちり三時間のワークショップを行った。

 講義開始前にスライドを投影して準備していたら、まだ席もまばらな教室にいた生徒がこんな質問をしてきた。

「この人って、俳句を発明した人?」

 そう言われて振り返ると、僕がレイアウトした芭蕉の肖像が画面に映る。そもそも俳句に発明者はいないなあ、と思いつつ、「うーん。この人は、発明したんじゃなくてね。近代俳句につながる歴史を始めた人、とでも言えばいいかな」と説明すると、小さく頷く。

 そんな具合で、世界各地の俳句をめぐる出来事の推移をかいま見られる僕の〝haikuな日々〟はなかなかに愉しい。

※写真はKate Paulさん提供

(『海原』2024年11月号より転載)