●面110 巻頭44句「魚の目」 2010年5月1日
蛇衣を脱ぎすてカテーテル開く
古電灯ひっくり返って夏野かな
蟻の巣をみていた少女の物語
教会の向日葵の首おもかりき
またしても向日葵畑に行き着けず
蓮根やアジアの泥で息をする
胡桃の実脳内いくつも扉あり
いつか鳴る硝子の中の銀の鈴
山本紫黄眠る駒込吉祥寺 順天堂大学供養等にて
逆光の塔に声なし冬桜
しぐるるや母は無言でミシン踏む
咳き込めば背中は広き野となりし
冬晴や親指と人差し指で丸
月せまる窓ふる里の大晦日
花びら餅牛蒡の雅しめやかに
寝積や腸ゆっくりかたよれり
人類がつぶやきだせばぽっぺん吹く
ひとときがくりかえされて春めける
いきもののまなこ可愛や春の立つ
いきものがいきものに触れひこばえる
アスパラガス光を忘れ白くなる
春昼や診察台から巴里の写真
人体の魔法とけだし春眠し
憂いとは曇天に舞う黒揚羽
恋多き友に聞き入る端居かな
三伏や左回りの壁時計
七日目の子猫にミルク飯饐える
丸盆に置けば西瓜の重さ増す
海べりの日傘の影と男かな
赤道を知らぬ男とバナナ食ぶ
十一月とてもさびしい夜のジャズ
嚔して卵にひびが入ったか
風花やあなたのそばにきて消える
冬の田に子は十の字に抱かれをり
毛皮脱ぐ空気の薄い録音室
正門に二丁目の人冬薔薇
くらがりに釣竿のある寒暮かな
遠山の赤城の山の雪もよい
危ないと知りつつ生まれ春の蝿
春の夜誰もとめない警報機
適温を唇で知るバレンタインの日
不機嫌な人がとなりで山椒の芽
鐘霞つぶることなき魚の目
死してなお一途な恋あり春怒涛
二十八歯失う日あり敗戦日
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