【豈63号】2020年12月
空 北川美美
ざく切りのキャベツの自由瓶詰に
学長は額縁にゐるイースター
禿山の廃市廃線青嵐
澤田君むつりと消えし五月かな
自作の巣遠くより見し庭師鳥
葉から葉へ光こぼれて六月来
囀りやたしかに空の空は空
みっちりと十薬の庭文字うっり
鴬や昨日の庭に手を入れて
金玉糖いつか見て来し地平線
老鴬や巨石ばかりの庭石に
抱き終へて吊るされてゐる竹婦人
海の日を簡易テントで寝る練習
日焼の人潮目を越へて束る眼
入る蛇と穴の痛みを思ふかな
晩秋の水のかたちを彫り当てし
開くたび林檎に戻り束る顎よ
長芋を昏き廊下に横たへし
からっ風に突き出てゐたる頭かな
折鶴の首尾を折りて芋虫に
(筑紫注)「豈」としては、美美最後の作品である。締め切りとしては5月であったからまだ再入院前の元気なころの作品ではなかったかと思う。
「澤田君むつりと消えし五月かな」は平成二十七年(2015年)五月に亡くなった澤田和弥であろう。この句を見ると面識があったのだろうか。彼の第一句集『革命前夜』の序文を書いた有馬朗人氏もなくなった。そして美美もいなくなった。
次回からは、「俳句新空間」のバックナンバーから拾ってみることとする。
0 件のコメント:
コメントを投稿