108. 野に蒼き痺草あり擦りゆけり
「痺草」を「しびれくさ」と読むと予想する。標準和名のイラクサかもしれない。ヨーロッパとアジアではその種類が異なるようだが、西洋ではnettleと呼ばれ食用ハーブとして花粉症などに効用があるとされる。いわゆる「食べられる野草」である。マリファナとして知られる大麻もイラクサ目で野草として痺れの作用もあるようだ。いずれにしても、痺れの作用がある野草を生のまま人体に擦り込んだというのだ。
「あり」「擦り」」の「り」(Li)の音韻が重なり、更に句末には切れ字の「けり」のLi音で終わっている。17音の頑なな定型でありながら、Ki-Li-Li-Li という音律が調子を創りだし鳥の囀りのようにも感じることができる。 Ki-Li-Li-Li(「きりりり」)という音が、痺れ草が皮膚に擦り込まれていく様子にも繋がり不思議な余韻が残る。俳句も音楽である。詩歌なのだから。
以下いくつか音の顕著な真神の句をみてみたい。
・<Ki>音の音律
16.著たきりの死装束や汗は急き KitaKirino … aseha seKi
62 裏山に秋の黄の繭かかりそむ …aKiino Kinomayu KaKarisomu
・<N>音が句の頭韻となっているもの
64 撫で殺す何をはじめの野分かな Na-Na-No
・上五の形容詞の活用が<Ki>音のものについても拾ってみた。
白き、青白き、赤き、強き、重き、長き、の言葉の選択に傾向がある。
顔古き夏ゆふぐれの人さらひ
蒼白き蝉の子を掘りあてにける
きなくさき蛾を野霞へ追い落す
水赤き捨井を父を継ぎ絶やす
馬強き野山のむかし散る父ら
青白き麺を啜りて遠くゆく
水重き産衣や春を溺れそめ
花火嗅き父を嗅ぎ勝つ今夜かな
野に蒼き痺草あり擦りゆけり
喉長き夏や褌をともになし
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