ミショーの紙魚の、やうなデッサン。 小津夜景
アンリ・ミショーの栞をもらつた。
なにかのオマケでその人がもらつたものを、わたしにくれたのだ。うれしい。
アカとエンヂの血痕みたいなのが、手漉きの紙にべつたりと張りついてゐる。
普段は紙魚にしか見えないのが、必要な際はじわりと意味として浮き上がつてきさうな、ふしぎな含みのある絵だ。
ああ、いつもことばのことを考えてゐる人の絵だな、とおもつた。
カヤックのほね鳴りゐたり野の部屋で
涼しきに吹かれその手はしりぞきぬ
かまきりをしづかな息は折り畳む
硝子藻を夜もすがら食すしろきもの
風凪げばあゆのあそびも萎えにけり
なつくさをながめてわれはうりぽつむ
ときぞらを斜す交ひ染みぬほうたるの
なつよどみうはずみのみがうつそみたり
ささめごとささやかならで泉割る
これは箱庭をひらいた手にすぎぬ
【作者略歴】
- 小津夜景(おづ・やけい)
1973生れ。無所属。
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