2014年6月27日金曜日

平成二十六年 花鳥篇 第五



     水岩 瞳
今年また旬の桜と旬の吾
桜満ち花神が覗き込む世間
桜とはあざとい花よ風邪心地

     辻本鷹之(「銀化」会員)
六月のボタンで開く電車かな
講堂に祝ひの幕やつばくらめ
日本海おだやかにあり昼寝覚
孫とゐて氷菓の列に並びけり
箱庭や盆の漆の海ふかく

     佐藤りえ
夏暁や月へ帰るといふ寝言
今やらなくていいことばかり五月闇
氷水とけておいしい水になる
筋肉に呼びかけ雲の峰高し
昼寝から覚めて真青の国へ行く

     寺田人(「H2O」「ふらここ」)
さあ筆を取れ南風を色付けろ
海水が甘くなるまでラムネ注ぐ
万緑に憩う缶コーヒー二本
おもいびといるのいないの蚊喰鳥
初音ミクのアナウンスする熱帯夜
眠剤の世界になってきた薄暑
ビー玉の墓場となっている泉

     堀田季何
『列子』説符第八第二十九章を読みしかど
蚊のために神は吾等を造られき
芥川より存へて夏の海
何らかの肉らしきもの冷蔵庫
バナナ責むナイフとフォーク駆使しつつ
蛇衣を脱ぐダンディズム捨てしのち

     木田智美(関西俳句会「ふらここ」)
マナティのかたちの雲や更衣
みんな変わっちゃったね夏帽子に影
ソーダ水かき混ぜ珍しい魚
夏野菜失恋できる人になれ
百日紅ばいばいたまには帰っておいで

     阿久津統子
地球儀の日本は無傷夏終る
桜桃忌だから真面目に呼吸して
みんみんの内側に熱みんな恋
わたしに善悪を問うな蝉時雨

     中山奈々(「百鳥」「里」)
種半分見えたる枇杷の熟れにけり
塀に色預ける雨上がりの枇杷
枇杷食ぶや境内は廃材置き場
休憩の易者バナナを剥いてをり
枇杷熟るる夜にでつぱつてゐる鉄柵


     野住朋可
ブラウスにしみが小さく麦の秋
葉脈のとおり病葉壊れけり
朴の花咲いて猫背の二回鳴る

     栢原悠樹
狩人の墓は根元に風薫る
ゆっくりとニュースは進み夏の昼
童謡は窓超えて来て大南風
Twitter閉じて夏野を駆け巡る

     仮屋賢一(関西俳句会「ふらここ」代表)
裏表定まるまへの蝿叩
まだ怖き道をゆくなり蛍狩
冷房や生徒つぎつぎ指して訊く


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