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第二回攝津幸彦記念賞・佳作受賞作五十句
薄明の海 しなだしん
心臓の場所に心臓木の芽風
クロッカスつつかけといふ変なもの
山焼の炎へ遠く我と鳥
啓蟄の茶碗の底にある突起
三月の軽井沢から投函す
貝殻のまぶしく割るる鳥の恋
さくらえび布教のごとくひろげ干す
乱暴に吹かれて赤いかざぐるま
ぬれてゐる初音を置いて帰りけり
巻尺のすると収まる苗木市
囀の下にベッドを持つてゆく
人といふ汀のありて汐干潟
太陽へさらすこどもの日の肋
筍を遺体のごとく並べ置く
青葉風入れて茶室に茶器ひとつ
すれちがふ誰も森林浴の顔
新宿の小さな引き戸梅雨兆す
白夜からもどりし人のにほひかな
歓声の簗をとほくにしてゐたり
三次元映画に蠅が来てとまる
しらじらと森のありたる送り梅雨
宵山のひとなみ碧く押し寄せる
ビニールを容れるビニール熱帯夜
遠泳の腕の疲れのころがれる
またひとつ絵具をつぶす夏の果
丹田のあたりに西瓜抱いてくる
GHQめきたる秋のサングラス
築地には水が流れて秋つばめ
いちじくを眠りぐすりのやうに食ふ
戸を閉ぢて小さな花野置いてゆく
日曜の昼は焼飯雁渡し
橋あれば空のひろがる芒かな
南瓜来て一週間の応接間
長き夜や鎖骨はなみだ享ける骨
額縁の中の明治よ秋しぐれ
栗甘く煮て朗らかな山の昼
ライダーの尻あたりから冬晴れて
座ぶとんを抱いて寝てゐる一茶の忌
十二月ひとの手帖と夜を明かす
幣振つて冬至まつりは夜となりぬ
しばらくは並走の窓クリスマス
寒波来る玻璃の内なるうるし椀
ゲレンデの真つただ中に来る電話
ときどきはかりかり食べて冬眠中
雪をんなハッピーエンドかもしれぬ
炬燵から出ずに岬に立つてゐる
木の匂ふホームセンター小正月
薄明の海へ帰へせるたんぽの湯
淡海には淡海のさかな冬の虹
縄跳へ水平線を招きけり
【略歴】
- しなだしん(しなだ・しん)
昭和三十七年十一月二十日、新潟県柏崎市生まれ。
平成九年「青山」入会。同十一年「青山」同人・俳人協会会員。
平成二十年 第一句集『夜明』(ふらんす堂)上梓。
平成二十三年 第二句集『隼の胸』(ふらんす堂)上梓。
平成二十五年「塔の会」参加。
「青山」当月集同人・「オーパス」所属。
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