2021年9月17日金曜日

【連載】北川美美俳句全集2

   本年1月14日に亡くなった北川美美の作品集は、この8月に評論集「『真神』考」が刊行された。今後は美美の俳句作品をまとめる作業のために、入会以来の「豈」「俳句新空間」等の作品を掲載して行くこととしたい。46歳からの作品で始まる。 

筑紫磐井 


【豈53号】2012年6月

つみつもる

春寒を来て金箔の間の前へ

小鳥くる喧嘩喧騒の隣家にも

弓池に草は育たず夏霞

筋肉はすぐに衰へななかまど

舌で歩くそれだけのこと蝸牛

階下より母迫り来る秋の暮

左手に新発田の火事を通り過ぐ

絶命の鼠の背中に降る埃

極月のホテルの浴槽乳房浮く

舐めてみる麹I粗塩I霰かな

おなじ空おなじ岸辺を年始

金黒羽白金I黒I白に輝きで

春泥に螺旋の穴やフィボナッチ

からみあうみみずあらわる揺れの後

礼節や赤城にかかる夏の月

三角地帯あらば家建つ白木槿

鶏頭花黙つてゐると石になる

木枯やこの世は北に傾けり

淋しいは濡れてゐること幸彦忌

つみつもる瓦礫に翼休めたり


【豈54号】2013年1月

明るい口

描かれて女神となりし椿かな

巡礼や石に隠れる石の顔

山山のみぞおちあたり椿落つ

春にあく奈落の囗や明るい囗

人妻やヒメジヲン過ぎハルジヲン

三鬼忌の鯛のポアレに骨がある

横濱の義父が手をふる都草

土手に咲くレング総立ちありがとう

跳ねかえるつぶての音や夏来たる

まはたきに朝顔の露落ちにけり

母という人と居るなり半夏生

短日の短き唄を唄いましょう

帰郷せり炎天の矢が降りやまぬ

叔父さんは南国に死す永久の夏

鮎の顔けわしきままに果てておる

かるぴすをすすりぴかぴか天の川

梨ふたつふたつの隙間を描くなり

坂道の今日の時雨を書き残す

鶏頭花黙っていると石になる

雪見の間首から上が隠れしよ


【豈55号】2013年10月

自動再生

マブノリア女神が降いりてくる香り

囀りやダンテがライオンに接吻

うぐいすや自動再生にて愛を

静かなる控室ないリ春の宵

川朧の如く運びしビニールシートへ花

永き囗の背筋にあてる柱かな

救急車の車内明るし春の暮

竿受の金具の錆や昭和の囗

五月蝿来て乱れていたる机上かな

神とおるたびに揺れるよ花水木

しばらくは牡丹の前の二人かな

歩行虫の好きなマイマイ蝸牛

黴雨かな隣家の樋の撓みかな

白き蛾の昼の眠りにつきあいぬ

兵が引く女王蟻や山に風

額の花人声たたぬ隣かな

町内の皆様と会う草むしり

ノンアルコールビール・ノンセックスライフ・天気雨

切花の水腐りゆく日暮かな

敗戦忌庭園の水動かざる


【豈56号】2014年7月

あめつちは

カタクリの花に届くや村太鼓

燕来る三角屋根のバス待合

先生を椅子ごと運ぶ花の昼

歯に付きし未だあたたかき草の餅

蓬売り蓬を育て売りにけり

穴出でし蛇這う道に黒き草

前職は蛇捕りである副市長

かわほりや兄が鉄扉を閉めにくる

先生の遺書にルビあり青嵐

ふるさとはひたすらねむく桐の花

とことわにねじ花のぼるあめつちは

エジプトの土産にもらう裸麦

小春日や一族の墓点在す

着鵆と蓋閉めている都政かな

短日の荷台に積みしうどん粉

寒厨に女集まる時間かな

冴え返る抜歯の後の肉の穴

十一月闇にひろごる山の影

瓶と瓶かち合う音や冬はじめ

火事跡の天井抜ける青き空

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