2021年5月28日金曜日

英国Haiku便り[in Japan]【改題】 (21)  小野裕三


クリスマスマーケットのHaiku

 今回は、ロンドン滞在中に出会った、イギリス人の書いた俳句の本をいくつか紹介する。最初に説明しておくと、イギリス人の作るHaikuには、多くの場合、それぞれの句にちゃんとタイトルが付いていることが多い。極端な場合には、俳句自体にほぼ匹敵するくらいの長さのタイトルが付けられていることも。「詩」作品にはタイトルがあるのが当然なので、Haikuもそう捉えられているのだろう。下記の引用句では、句の冒頭の括弧書きが句のタイトルである。

 一冊目に紹介するのは、クリスマスマーケットで見つけた本だ。近所の大きなショッピングモールで毎年開かれる小さなクリスマスマーケット。食品や雑貨を売る店が立ち並び、そんな雑貨店のひとつで、その句集は売られていた。書名は『触るのをやめて下さい…および猫によるその他の俳句』(ジェイミー・コールマン著)。本の中は猫の写真でいっぱいで、その写真に合わせるように俳句が配置される。つまり、句の詠み手は人間たちを観察する「猫」、という設定だ。

「触るのをやめて下さい」 あなたに触られるといつも / あちこちを舐めなきゃいけなくなって / 疲れるんだよね

「インターネット」 つまりあなたたちが / この壮大な代物を発明したのは / 僕らの写真のためってこと?

 二冊目の句集は、エディンバラの美術館で買ったもので、スコットランドでは名の知れた詩人の手によるHaikuらしい。書名は『郵便箱を通じて』(ジョージ・ブルース)。経歴を見ると六十代で俳句に出会い、その時に「俳句とは、麻疹のように広がる中毒であると発見した」と書き記す。

「笑い」 賢者の目の中に笑いがある / それは何を意味するんだいと私は訊ねた / 笑いだ、と彼は答えた

「惑星に生きる」 俳句の知恵 / 掴もうとするな / あなたの手から落ちたナイフを

 三番目の句集は、英国のAmazonで買ったもの。タイトルは『それがあなたたちが考えていることのすべてなの?』(ゴードン・ゴードン著)。

フランは飼い犬を愛していたけれど / 犬はウェールズ語しかわからなかった / 彼らは黙って歩いた

電車を二回乗り換えて最後は泳ぐ / クリフォードの新居からの / 通勤はひどいもんだ

 全般的に言って、日本語と英語の音韻構造の違いのせいで、英語で五・七・五の句を作ると大概は日本語より情報量が多くなる。だから英語で作られた俳句は、ちょっとした起承転結を持つことが多い。また、今回紹介した三冊とも、各頁に写真やイラストが満遍なく添えられているのは、スケッチ的な感覚で俳句が捉えられているからか。こうして見ると、五・七・五という形式を借りて独自に進化した「詩」という印象が強いが、このような英国版のHaikuもそれはそれで素敵な世界だ。

(『海原』2020年12月号より転載)

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