2020年5月29日金曜日

【新連載・俳句の新展開】第1回皐月句会報(速報)

投句:5月1日~10日
選句:5月11日~24日
発表:5月25日

(5点以上の高点句と選評)
11点句
黒々と職員室のバナナかな(西村麒麟)
【評】 誰も手をつけぬまま。 ──岸本尚毅
【評】 写生として読んでもおもしろいですし、何かの風刺として読むこともできます。バナナの雄弁さが印象的です。 ──小林かんな

7点句
ふらここの高みの先に待つと云ふ(真矢ひろみ)

鯉幟のなかの青空折り畳む(水岩瞳)
【評】  青空ごと取り込んだという発想と、折り畳むという屈託とに惹かれました。 ──小林かんな

こどもではなきわれわれのこどもの日(依光陽子)
【評】 大人になってしまった、かつての子供達。誰も大人になりたくなかったかも知れないのに。「日」以外すべてひらがなの表記が魅力的。 ──仙田洋子
【評】 すでに無邪気な子供ではいられなかった自分たちの
末路は、大人にもなりきれないという現在の屈折
を抱えており、惹かれた一句。 ──長嶺千晶
【評】 確かにみんなにきます、毎年。 ──西村麒麟

6点句
燕子花はなればなれに人は立ち(松下カロ)
【評】 燕子花は、ひとかたまりになって生えているけれど、一本一本の姿はすっくと直立、他の一本とは独立した凛とした美しさがある。一方現状の人間社会では、三密厳禁とかで未だ不自然なはなればなれの立ち姿。この花たちのようにつながっていてしかも凛と離れていたい。集団社会とはなにかということをもふと考えさせられた。二句一章、季語との距離も美しく付き離れている。 ──堀本吟
【評】 この句には五月雨の中での別れ際、ろくに続かぬ恋句といった風情も無いではないし、年月を経ればその様にのみ読まれることになるのかもしれない。が、であってみればこそ旬な読みもとどめておこう。新型コロナ流行当時の人々はソーシャルディスタンスとやらで疎らに努め、ニュースキャスターも漫才のコンビも中途半端な距離に立って喋っていた。そうした浮世を反転した世界として、かきつばたの密に群生する咲き様が目に鮮やかに写ったと。 ──妹尾健太郎

5点句
葉桜の葉擦れ言霊過ぎゆくか(仙田洋子)
【評】 葉桜となった桜の木は花よりも物を言う。雨の兆しの風を告げ、地震をも伝える。古代の人々は木々や動物たちの声を聞いて天変や政変を知った。街路樹の葉桜は、道行く人々の言霊を吸い、ざわざわと不穏な音を立てていたのだろう。 ──篠崎央子
【評】 22。葉桜の季節。そこに一陣の風が過る。その葉擦れの音、匂い、気配などから言霊をイメージした。あたかも自身が、かの歌聖人麻呂にでもなったかのように言の葉の新しい構成を思考。しかしそれもまた過ぎゆく一刻の幻想。 ──山本敏倖

六年生とほくに見えて卒業す(筑紫磐井)
【評】 もう半分大人、親から離れていく年頃だ。友達同士でかたまり、親の傍にはやってこない。だから、「とほくに見えて卒業す」か。 ──仙田洋子
【評】 当たり前であるのに不思議。 ──西村麒麟

夜を溜めて菖蒲の紫紺尖りたる(篠崎央子)
【評】 句をいつものように二度吟じてみる。紫紺に染め抜かれた花だけでなく茎も葉も、勢いよく筆を払って直線的に描かれたような菖蒲の姿が映像に浮かび上がる。幾夜の動揺を乗り越えて直立し微動だにしない菖蒲の自信に圧倒される。 ──千寿関屋

(今回は、4点以下の句で選評を受けたものを掲げます)
4点句
病棟を下りて五月の海の底(夏木久)

【評】 「棟」という建物の下が海につながっている、というイメージ ──岸本尚毅
【評】 三年前、ガンで妻を亡くした。転移した脳腫瘍を焼き切る治療のため、毎日毎日、病棟地下の放射線照射室まで下りていった。治ると信じていたあの頃、照射室へ続く風景は、キラキラとした明るい五月の海の底のようだった ──中村猛虎

無駄歩き春昼の月蹤いてくる(平野山斗士)
【評】 特選 「無駄歩き」→『無駄安留記』→「鳥取砂丘」→「月の砂漠」とイメージが広がります。作者の徘徊に付き合って、真昼間からのこのこついてくるお月さまの閑さ加減が気に入りました。この時期、三密を避けてくださいね。 ──渕上信子
【評】 「無駄」の楽しさ。 ──岸本尚毅

薔薇園へ行く道々も薔薇さかん(仲寒蟬)
【評】 薔薇園へゆく途中も薔薇のことを思うので、道々の薔薇が気になるのであろう。 ──岸本尚毅
【評】 薔薇が一斉に咲く様が豪華。 ──渡部有紀子
【評】 もう行かなくても良いのでは、と思いつつ行く。 ──西村麒麟

憲法記念日消火器を新しく(渕上信子)
【評】  緑と消火器の赤が目に浮かびます。──小林かんな

3点句
蟻塚の奥千萬の蟻眠る(渡部有紀子)

【評】 日本の蟻塚で季語は蟻というよりも、季語を超えた、アフリカ大陸の巨大な蟻塚を思い浮かべる。シュールで、SFめいた印象も受ける。 ──仙田洋子

入学の後の宙ぶらりんの日々(前北かおる)
【評】 入学という大事を果たした後は5月病などになるととりましたが、心当たりがある人が多いのではないでしょうか。 ──小林かんな
【評】 今のコロナ騒ぎの状況で無くて良い。その方が面白いかも。 ──西村麒麟

菖蒲湯のひと葉はヒルコの舟ならむ(篠崎央子)
【評】 伊弉諾と伊弉冉の二神の間に生まれた子の蛭子。三才になっても歩けず流し捨てられたという。せめて菖蒲の葉に乗せて流してやって欲しいと願う。その舟を菖蒲湯のひと葉に見た作者の詩情溢れる感性は素敵だと思いました。 ──田中葉月
【評】 私が作れない句を選びました。菖蒲湯のひと葉を、イザナギとイザナミの子のヒルコが3歳になっても脚が立たず、流し捨てられたときの舟と捉えた句です。知識と感性が融合された句です。また、そのヒルコを七福神のひとつの恵比寿として尊崇した、中世以後の優しい心を思わせる句です。 ──水岩瞳

清潔なガーゼが欲しい花菖蒲(小林かんな)
【評】 邪気を払うという菖蒲の、その花の清潔感が今一番欲しいものを思い起させる点、惹かれました。 ──小沢麻結

2点句
はつなつの腐臭かすかに墓域あり2点(岸本尚毅)【評】火葬しか知らないのだが、「腐臭かすかに」ということは土葬なのだろうか。「はつなつ」が絶妙に効いていると思う。 ──仙田洋子
【評】 墓場に限らず、人間の活動のないところにはこうした匂いが生まれる。落葉や朽葉等の分解は、実は初夏の生の営みのしるしなのだ。「かすか」にはむしろ肯定的なニュアンスがある。 ──筑紫磐井

五月三日魚になりたい人募集(山本敏倖)
【評】 そうか、これで良いのだ。と、バカボンのパパの如く。もちろん「俳句フェチ」にしか通じない『内輪ネタ』の類かもしれない。古今東西の知に通じ、季語の本意とその例句をチェックして―といった行動様式の真面目「俳句フェチ」は、己が詩学に照らして無視か爆笑か、果たしてどちらであろう。 ──真矢ひろみ

雲ひとつ従へ夏野ゆく王よ(内村恭子)
【評】 古代の雄略大王のような王を想像した。背景が雄大なのでカッコいいけれどもどこか淋しげで「裸の王様」的な雰囲気を感じる。このひとつの雲は従者なのか。モーゼのようにきっと余人の持たぬ霊力か何かを備えているのだろう。 ──仲寒蟬

覚えある風に面上げ厩出し(小沢麻結)
【評】 流れてくる音楽でその曲をよく聴いていた時代を思い出す事はある。また訪れた町や通り過ぎた人の匂いや香りでふとタイムスリップする事もあるだろう。厩から馬を出すのは省略された一人称の作者である。それでも出された馬も空を見上げたかもしれない。そうか、またこの季節が来たのだと風が教えてくれる句。 ──辻村麻乃

囀りやたしかに空の空は空(北川美美)
【評】  読み手としての読解なら、16、31でも…と思ったが、56にした。この句、不用意な説明や解説などすれば面白味が?しかし敢えて。詠み手からのテキストは読み手へのテキストで変質し、読み手のセンスに任せられる。
 季節の移りゆく空へ囀りが・・・、しかしその空・空間がどこか変質してゆくような・・・気がする。
 「詠み手の世界」➜「読み手の世界」へ変質してゆく。
読み手のセンスに任された以上、ルビなど無用。
 「空」は「そら」だけではなく、「から」とも「くう」とも。私は「から」の「そら」は「くう」と読んだ、先に「空即是色」の語も踏まえ、曲解としても。
 同語の繰り返しは10、54などにも見えるが56が面白かった、単にクウクウと音声の擬音でも。
 これが俳句の面白さの一つだと感じる。 ──夏木久
【評】 鳥語は何を伝えるか。「空」を「ソラ」「クウ」「カラ」と自由に読み替え組み替えながら思索に耽る。この句には何度も立ち止まるだろう。 ──依光陽子

烏賊となる進化を逸れて夏館(妹尾健太郎)
【評】 つい迂闊にも人に進化してしまったが本当は烏賊になるべきエトスの持主が、館に逼塞している、と読みました。青白き書斎派といった処か、それなら夏はいよいよ避暑地に籠るだろうと思えば季語も活きています。 ──平野山斗士

片方の目が泣いてゐる沈丁花(田中葉月)
【評】 涙は両方から出るだけではない。片方からすっと流れる。悲しいのではない。しかし痛い。どこからの痛みだろうか。曇りのときほどよく香る沈丁花に、片目を預けた。 ──中山奈々

1点句
冷房に視ゆ自粛ちふ不可思議町(妹尾健太郎)

【評】 今年春のゴーストタウン的都市を俯瞰したようです。言葉で説明した表現になっているのをもし物に託すことができたら、さらにいいと思います。──小林かんな

春炬燵嵌まり埋まりの姉妹かな(辻村麻乃)
【評】 「嵌まり埋まり」の自堕落な感じ。「まり」の反復も面白い。何とか姉妹という趣。 ──岸本尚毅

葉桜のはらわた朽ちて若枝出づ(平野山斗士)
【評】 中七の凄み。 ──仙田洋子

いつよりか待つこと覚え泉の辺(仲寒蟬)
【評】 母親の吾子を見つめる目が芳しい。 ──依光正樹

もうひとつ春着のボタン外してくれ(松下カロ)
【評】 二つ解釈が成り立つ。「自分のボタンを外してほしい」と依頼している解釈と、「(作者が見ている人に向って)あなたのボタンを外してくれ」と言っているのとふたつである。私は前者の解釈で作者は何らかの理由で自分で外せない、例えば手が不自由、あるいは病床にある、手がふさがっているなど自らボタンが外せない何らかの理由があるのではないかと気になった。 ──北川美美

薔薇の木に薔薇の花咲く不思議かな(渕上信子)
【評】 そんな事考えた事も無かったですが、そうかも。 ──西村麒麟

※次回句会は、6月1日から投句を開始する予定です。

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