2023年6月30日金曜日

ほたる通信 Ⅲ(35)  ふけとしこ

       姫女苑

訃報あり水木は白く花広げ

谷卯木咲く水音の高くなる

雨粒を呼び込むやうに枝蛙

夏空の色に咲き出て丁字草

兜蟹見ての帰るさ姫女苑


・・・

 「昔むかしその昔倉敷地方は海でした。阿知の干潟と言いました。阿知の干潟の阿知最中……」というコマーシャルがローカルテレビでよく流れていた。菓子屋の名前も流れていたはずだが、記憶にない。調子のいいところだけが頭に残っていたのだ。昭和も30年代の頃だっただろうか。

 先月、笠岡市のカブトガニ博物館へ行こうと思い立った。新幹線の岡山駅で下車、山陽本線に乗り換えた。笠岡は岡山県南西部、瀬戸内海に沿う町である。同じ岡山県内とはいえ、私は備中高梁出身、帰郷の時には伯備線に乗ることが多い。だから山陽本線は駅名からしてあまり馴染みが無い。

 倉敷の前か後か、西阿知という駅名のアナウンスがあった。そこでふっとこの「むかしむかし~」のフレーズを思い出したのであった。懐かしくなって阿知最中を検索してみたが、ヒット無し。それこそ昔々のことだから、絶えてしまったとしても無理はない。コマーシャルですっかり馴染んでいたが、買ったこともなければ食べたこともない。

 最中という菓子、餡子好きの私としては決して嫌いではないけれど、あの皮はちょっと苦手。口蓋などにぺたっと貼り付くとどうにも不快なものだから。

 で、この日は最中ではなく「カブトガニ饅頭」なるものを買った。その週に友人を訪ねる予定があり、お土産にと思ったのである。やや大きめの饅頭で、餡がずっしり……。

 雑談に脱線ばかりの小句会をしながら、皆でお腹が重くなりそう~と言いつつ食べたのであった。

 カブトガニ博物館というのは、実にこじんまりとした博物館だった。面白かったのはタクシーで研究者に間違われたこととトイレ。ここのトイレの入口は赤と青に塗り分けて、白抜きのカブトガニがデザインされていた。赤い方は女性用でリボンをつけたカブトガニのイラスト。青い方は男性用、こちらは帽子を被せてあった。

 本当はカブトガニのことをもっと書きたい。

 けれど、「俳壇」8月号にこの蟹のことを掲載予定なので今は止めておく。またいつか詳しく書いてみたい。

(2023・6)