パンクロックとhaiku
初めて出会った外国人に、俳句を知っているかと訊くと、けっこうな確率で「haikuなら知ってるよ」と答えが返ってくる。それが詩や文学の繋がりで出会った人でなくても、だ。ただし、その時に言及される人名は芭蕉や虚子などではなく、思いもよらない人名であることが多い。
先日、オンラインで南アフリカ共和国に住む人(今回は白人男性)と初対面で話した。僕が俳句のことに触れると、彼が挙げたのが、ジョン・クーパー・クラークという人名だった。
そこでその人物のことを調べてみた。英国生まれで、しばしば「パンク詩人」の肩書きで呼ばれ、七〇年代のパンク・シーンで有名になり、ある世代にはカルト・ヒーロー的存在で、今では彼の詩は英国政府が定める教育教材にも掲載されるという。「詩はエンターテインメントだ」と信じる彼の活動は多彩で、BBCのある番組では、詩人、ロックスター、コメディアン、社会評論家、ファッションアイコン、と多様な肩書きで紹介される。
そんな彼のもっとも有名なhaikuがこれらしい。
To freeze the moment
In seventeen syllables
Is very diffic
十七音に / 瞬間を閉じ込める / のはとてもむず
英語で五七五の音節を数えたところであえて途切れる。最後の「難しい(difficult)」が途中で切れて、「ほら、だから難しいって言ったろ」という意図だろう。ユーモアたっぷりの句だ。彼はhaikuを多作したわけではなく、掲句も詩集『The Luckiest Guy Alive』に他の詩とともに六句収録されたうちの一句だが、その後も彼はこの句を再三紹介してきた。
ともあれ、パンクロックと俳句とは日本人の感覚なら水と油の関係とも思えるが、彼の中では違和感なく繋がっているようで驚く。背景の一つとして、彼も含めて詩を舞台で朗読することが西洋では一般的であるため、詩作が音楽演奏へと繋がりやすかったのかも知れない。
また、彼の詩への見方も背景にある。BBCラジオの番組(*1)で彼はこう言う。
「詩っていうのは、何かすごく大きなものを伝える一番短いやり方なんだ」
その上で彼は、ジョン・ライドン(パンクロックの象徴的存在であったセックス・ピストルズのボーカル)などの歌詞にもそのことを感じたと語る。詩の本質がそうなら、最短の詩型であるhaikuに彼が魅力を感じたのは頷けるし、そしてパンクロックもその性質を共有するなら、結果としてhaikuとパンクは違和感なく繋がりうる。そのようなパンクロックを巡ってのhaikuと俳句の違いは、日英の文化全体におけるhaikuと俳句の位置づけの差を端的に示すようで面白い。
*1 BBC Radio 4「Desert Island Discs」
(『海原』2023年6月号より転載)