2023年10月13日金曜日

第38回皐月句会(6月)

投句〆切6/11 (日) 

選句〆切6/21 (水) 


(5点句以上)

9点句

少し肺病みたる声や金魚売(西村麒麟)

【評】 昭和前半くらいまでの風景でしょうか。──仙田洋子

【評】 「肺病み」は昭和30年代までなら結核。今ならコロナの後遺症か。いずれにせよ声から肺の病気を診断してしまうなんて、作者は只者ではない。──仲寒蟬

【評】 金魚売りの「金魚、えぇ~」というような声音が、「肺を病みたる」となぜわかるのだろう。作中の主体たる「金魚売り」が最初から作中主体として書かれている(つまり、仮構されている)からである。病を押して、このような夏の風物詩(楽しく華やかな遊び)を売って生計を立てねばならない金魚売の生について思いをはせると、読む者はそこに哀れさを感じる。──堀本吟


バナナよく反つて西日の神楽坂(岸本尚毅)

【評】 夕焼けもえる神楽坂とバナナの相性やいかに──真矢ひろみ


7点句

ひとかきで海亀われを引き離す(仙田洋子)

【評】 ほんとうに海亀と泳がないとこの句は生まれない。海亀への驚き、敬意と共にそこに自分が居ること、居られることへの感謝の気持ちも伝わってくる。──辻村麻乃

【評】 一生のうちに海亀と併んで泳ぐ日本人は多くないだろう。しかも飼育プール等ではなく広々とした海原が感じられる作品。淡水の亀たちよりも格好いい海亀の前足、ケーキにクリームを塗りつけるヘラ?みたいな道具似の前足でグイッグイッ海流を掻くのだろう。その横波を浴びてたちまち後方へ置いてかれてみたいな。──妹尾健太郎

【評】 書かれていなくともスキューバ・ダイビングで海亀と並んで泳いでいるのが分かる。「ひとかき」に自然の力を感じる。──仲寒蟬


5点句

掃除当番玄関前の蟻を掃く(渕上信子)


天金といへども黴をまぬかれず(仲寒蟬)

【評】 三橋敏雄「かもめ来よ天金の書をひらくたび」を思い、せつなくなった。──依光正樹


(選評若干)

菖蒲園どのウイルスも目に見えず 2点 西村麒麟

【評】 なるほど!──渕上信子


水羊羹ふたりのために切る三切れ 3 点渕上信子

【評】 なんでわざわざ三切れ?などと考えない方がいいですね。飄々とした人なのでしょう。──仙田洋子


六月の樹海大魚のいる予感 4点 田中葉月

【評】 樹海で切って頂く。六月。梅雨を含んだ蒸し暑いどっちつかずの天気が続く。その樹海。広範囲にわたっての森林を鳥瞰すると、大魚のいる予感が走る。物語的壮大な発想に魅かれた。──山本敏倖


ほめられも責められもせず捩花  1点  田中葉月

【評】 「雨ニモマケズ」の一節を拝借し(あれは「ホメラレモセズクニモサレズ」だったが)捩花に着地したところがすごい。──仲寒蟬


裏切が五月闇より乗る駱駝 3点 夏木久

【評】 動物園にいるのか?シルクロードかアラビアの砂漠にいるのか?「駱駝」の棲む場所がわからない。しかもそれにともなって「裏切」という悪いものが乗っかる。常識での理の通らない叙述である。じっとりした日本の梅雨のいわゆる「五月闇」が不気味な重圧感をもたらす。わけのわかりすぎるこの50句中とりわけ読者の混乱に誘い「俳句」の定石を裏切ってきた確信犯の勇気に一票。──堀本吟


亡き夫のごと太りたる夏の雲 4点 仙田洋子

【評】 もう少し痩せていたらもう少し長生きできたのに・・・──渕上信子

【評】 思わずフフッと笑ってしまった。亡き人を想う時、楽しく思い出せるようになった作者を頼もしく感じる。──依光陽子


一族にエンゼルフィッシュ二三匹 2点 松下カロ

【評】 1、2、3・・・、数詞の変化の間に色々なシーンが…垣間見える。家族親族の顔があり・・・、エンゼルフィッシュ・天使魚が舞い泳ぎ、其の数匹を囲む水槽世界が・・・。擬人・譬喩の景の間に立ち上がる悲喜こもごも、不思議に面白い!──夏木久


ゴンドワナ大陸語りつつ氷菓 3点 内村恭子

【評】 「つつ」がやや気になりますが、スケールの大きさでいただきました。──仙田洋子

【評】 かき氷→氷河の縮小→大陸移動(プレートテクトニクス)てな感じで2人の話が展開したのだろうか。その後はきっと恐竜の絶滅とかバオバブの木なんかに話題が移って行ったに違いない。──仲寒蟬


絞りきる煎茶一滴旱星 1点 真矢ひろみ

【評】 上五が効果的と思います。熱を帯びたような色の星の光る夜、薄緑の雫のきらめきが目に浮かびます。──小沢麻結


水を脱ぐレタス哲学者はタレス 4点 飯田冬眞

【評】 駄洒落と言ってしまえばそれまでだがレタス→タレスの発想の飛ばし方に感服。「水を脱ぐ」という入り方も見事であるしタレスをしれっと紹介しているあたりも可笑しい。──仲寒蟬


悩み事かかえています金魚鉢 2点 望月士郎

【評】 久方ぶりに肩の凝らない句を読み、爽快──真矢ひろみ


声がはりしたる不思議に夏の海 2点 依光正樹

【評】 青春の不思議の一つ。──仙田洋子