34号(2001年11月)
彩色は無彩色
段畑の北極星に屹立する
君は春うつむくままに風すぎる
異人さん四月に来るわと言いし姉
ててなしの誕生日朝摘みいちご
菜の花はいずこに咲けと赤さ大地
二百日夢も見ずに寝鳴くつぐみ
春からの苦悩つぐんで白桃よ
唯々一人君待つ椅子が回転せり
青を知る雑木林に尾長鳥
一度だけ途切れた夏に遺失物
返えす返えす挨拶長き眺める夜
もしも君と月見なければ十時です
赤茶けし風に吹かれて病む瞳
「G町」の月夜に飛石は夜鳴き鳥
骨董市の玻璃はまたもやまがいもの
風上を訪ねし途中黄色菊
訪ねるは二十年後のその私
35号(2002年10月)
丘
風吹けりひまわり畑見えますか
気心が樹々にぶるさがる春の午後
春夏秋冬死体に降る雨国土あり
修羅と連れだちあなたとあえる萌木の地
民は民丘は私刑(リンチ)が正義です
丘へたつあなたを呼ぼうシオンの庭
初七日を過ぎて水仙刈り取りき
憑きゆくは苦しき事なり麦秋の地
今ここへおいでよここへ鬼あざみ
板塀のアリラン聞きし少女の首
仏に蓮死者の記憶に眠るイスラム
昼満月戦火団欒選びえぬ家族
ミサイル輝く闇夜の手の震え
白骨の憲兵韓紅(からくれない)を秘めている
どこまでも雲涌く丘や白き村
ちるさくら無の暗黒の脳髄よ
37号(2003年10月)
首都東京と爆撃地点の眠り
かたすみのかたばみかみきひるさがり
月光やひとさしゆびは孤を描き
馬住む町と鬼住む町のおぼろ月
すべる夜々ねずみの散歩マンホール
九つの児を棄てる母の初がつお
かみさまがとおくむかしをよんでいる
誕生日の日が昇るままぼくすてないで
小さき頭背に寄り添いて眠る秋
告げられぬ名を持ち去りて死後五年
オリエントの春よ無色なイエスの血
悪魔だ剌せ愛のの家族の愛国や
出立の朝誰彼の血痕踏みしめ0
父ちゃんの言う通り落ちる首
四月空犬が赤子の指くわえてる
死んでるわ私は眠る月夜の彼
『句篇』安井浩司句集讃
天心より汪がれし雨夏の花
38号(2004年2月)
都市の雨
片隅なのか民暮らす国境の街
山起つ恐れ強がるばかり足裏よ
八つでも恐がらないよ赤満月
十三の少女の足骨花野行く
泣き抱きて泥土の沼の白き蓮
仰ぎ見る空の縁より蛇降りる
火柱の赤き熱きに呼び声が
直線に無言に走歩夕の雨
切り落とされて腕一本海の町
影ながき二つの手と手赤き月
春夜ふけさげすむ君は苦しがり
亡骸の眠る国土は虹の雨
戦場の闇に降り落つ声よ声
差別という事実の陰画焼き付けし
死ぬがため生まれて四年幼髪
赤色の落葉にもぐる捨子犬
死者守り身構える夜よ風を聞く
思い出してごらん青い空の青の色
39号(2004年7月)
ラピスラズリ色の街
紫陽花へ手を延ばせば手は届く君
南風人知れずまま交信す
―歌人市原賤香―
亡夫の影眠り抱きし五月(さつき)の光
―大泉史世へー
好きということの離れる遠い鈴の音
紅葉黄葉深山人りせば漆椀
蒼白と姉に紅差す黄泉大路
白き腕宿る狂気の夏景色
青柿に友達じゃないという女(め)
ひとは歌うひとがひとでありしひとでなし
立穴の奪われし眠り人柱
裸身の内耳突き剌す太古の叫び
地底に星アフガニスタンイラクパレスチナ
梅雨晴れや声消えうせて群集哉
こぼれ落つ革命反核反戦日