本年1月14日に亡くなった北川美美の作品集は、この8月に評論集「『真神』考」が刊行された。今後は美美の俳句作品をまとめる作業のために、入会以来の「豈」「俳句新空間」等の作品を掲載して行くこととしたい。46歳からの作品で始まる。
筑紫磐井
【豈57号】2015年4月
果実は沈む
鳥・獣あつまつてくる冬日かな
寒鯉の動きて泥のかがやける
羊羹を斜めに切つて梅咲いた
白梅や笑つた後のしずけさに
着ぐるみの中のからだを昼寝かな
慰霊碑に山ゆり鬼ゆり凭れ咲く
尾骨持つ二足歩行や秋はじめ
雪原に落とす果実は沈むなり
カニ缶の外に冷たき空気かな
鎖留めして黄色い戦車雪の原
遺影より紅の明るし冬薔薇
アスファルト亀裂に氷ふくらんで
群羊の一頭失せし年の夜
初場所の此処砂かぶり塩かぶり
初景色廃墟廃屋廃炉塵
ホテルから午後の出社のサッチャー忌
音楽は残り手紙は燃やされた
【豈58号】2015年12月
梅日和
隣人に挨拶をする梅日和
頭を上げて啼く鳥を見る春の昼
きさらぎを鳥の名前と思いけり
歩き出す膝の後ろを初蝶来
菜の花と大根の花隣合う
野を焼いて水を飲み合う男たち
歩き来て足が真つ赤ぞ鳥曇
てのひらに丘あり草餅にくぼみ
ぶらんこや空の向うに飛ぶ子供
ジオラマの中の家族や昭和の日
くちびるにいちご冷たき静かな夜
観覧車新樹の山と隠れ合う
縁台を水掛ける人と洗う人
空豆の皮に皺寄る夕かな
怪我をした男に運ぶ氷水
滝の前みな歓声をあげている
竹は竹に凭れて撓る雲の峰
日本の暑さを競う盆地かな
夏の馬川がひとつになるところ
一日の終わりに流す夏の水
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